2008年3月26日水曜日

続く総合電機メーカーの再編

 先に扱った旧IT御三家のように、依然として成長業種であるIT分野においては、多角化が進んでいます。一方で、成熟業種では逆の動きが見られます。
 例えば携帯電話事業で最近見られた例として、ソニー・エリクソンのNTTドコモ向け事業縮小や三菱電機の撤退が挙げられます


 後者の三菱電機は携帯電話だけではなくテレビや冷蔵庫・洗濯機といった家電や、発電機や工場用空調機などの産業用電気製品まで、幅広い製品を提供しています。
 また、それらの完成品(SET)を提供するだけではなく、液晶モジュールなどの機能部品(DEVICE)やLSI・ICといった部品(PARTS)の製造・販売を行っています。
 こうした企業を総合電機メーカーと呼ぶのですが、その「総合」たる所以は、このように水平・垂直両方向に多角化された事業形態にあります。

 電機製品は、機能部品を組み立てて製造されます。機能部品は、部品の集まりです。
 さてここで、最終的な製品利用者である消費者のニーズは、最終製品の販売者や製造者にぶつけられます。そのニーズが分かれば、部品や機能部品の開発をニーズの高い部分に合わせて行うことで、最も無駄のない投資ができることになります。
 この際、最終製品と機能部品及び部品の製造機能が単一の企業ないしは企業グループの中にあれば、消費者ニーズが部品や機能部品の開発・製造部門に届き易くなります。
 また逆に、最終製品部門が需要者となって、部品や機能部品の開発・製造を実現するための最低ロットを捌く先になります。
 これが電機分野において垂直統合が進んだ、一つの大きな要因ではないかと、私は考えています。

 それでは、水平方向の多角化についてはどうでしょうか。
 総合電機が複数の製品群を持つ理由の一つに、機能部品や部品の共用化による効率の向上があると思います。
 例えば音声出力用ICは、PCのみならず、エアコンにも工場の制御パネルにも、その他数多くの用途にも流用できます。自社内に数多くの製品群を持ち、それらに当該部品を使えば、生産数量を増やし、その結果として開発・製造単価を下げることができます。
 こうした理由によって、電機産業の総合化が進んだのであろうと考えられます。

 しかし、先進国において電機製品の普及過程が終わって産業が成熟化し、消費者ニーズが高度化すると、状況は変わります。
 求められる機能が先鋭化し、それに対応するために、個々の機能に強い、あるいは特徴ある機能を持つ部品が増えました。
 当該機能を最終製品に持たせるためには、その部品を外部から調達する必要があります。

 更に産業の成熟化が進み、消費者が求める機能がほぼ満たされた状況になると、メーカー側が新たな機能を提案し、需要を創出する段階に移ります。例えばエアコンの自己清掃機能とかマイナスイオン発生機能などは、メーカーが提案して当たった例と言えるでしょう。
 アタればいいのですが、ハズしてしまうと開発投資が無駄になります。事業リスクが拡大したわけです。(事業リスクが高くなると企業分化が進むという傾向があるのですが、この点については、いずれまた機会があれば述べることにします)
 こうした状況下で最終製品・機能部品・部品を自社製品で固めていると、リスクはより高くなります。例えば最終製品である携帯電話のある機種が売れなかった場合、当該機種専用に開発した液晶ディスプレイやDSPなどは、全て無駄になってしまいます。
 これに対応するために、部品や機能部品をメーカー間で相互に調達・販売することで、得意分野に特化する形での合理化が進みます。その際、当該製品の相互利用を可能にするため、いわゆる「標準化」が進みます。
 このように部品や機能部品を外部調達に切り替えることで、最終製品の失敗に対するリスクを下げることができます。
 一方、他社製部品・機能部品より高機能かつ安価に提供できれば、外部提供を増やすことで量産効果を生み出すことができます。
 ここに到って、電機分野における垂直統合の意味は、かなり薄くなったと言えるでしょう。

 また消費者の要求が高度化することで、製品群をまたいで共用可能な部品・機能部品は減少します。
 水平方向における多角化の面からも、電機分野において総合化の意味は薄れてきたと言えましょう。

 2007年に続いて2008年の第一四半期も、上に挙げた携帯電話事業の例をはじめ、電機メーカーの事業撤退や再編に繋がるニュースが目立ちました。
 多くの方がおっしゃているように、今後もおそらくこの傾向は続き、「選択と集中」による電機メーカー各社の再編が更に進むと、私も思います。

2008年3月16日日曜日

セミマクロなハナシ(3)~風呂敷の広げついでに、政策提言なンゾを

 前回述べたように、差別化欲求が強く、かつ厚みのある消費者層に支えられ、日本においては競争力の相対的に低い企業も生き残ることができました。
 しかし1990年代末以降、自動車などの競争が国際化した産業においては、淘汰が進んでいます。日産・マツダ・三菱など外資の傘下に収まる企業や、いすずの乗用車のように事業撤退に追い込まれるメーカーが出ました。
 ただ、そうした変化は、EU統合を機に始まった、企業間競争の国際化という要因だけによるものではないと思います。日本国内の消費市場の厚みが無くなったことで、競争力の弱い企業を下支えできなくなったことも、その理由であろうと考えています。
 この変化は、所得再配分の見直しによる、国内経済の縮小によってもたらされたのではないでしょうか。

 所得再配分を富裕層側に振ると経済が縮小するのは、日米両国における実験の結果として認識できるでしょう。
 日本では1990年代以降、アメリカでは2000年末に現ブッシュ政権になってから、所得税累進率を緩和して、いわゆる「金持ち優遇策」を取りました。
 しかし、お金持ち一人が遣う金額は、貧乏人百人のそれより小さい場合が多いワケです。従って、こうした政策は、民間消費支出の減少による景気の減退を招きます。
 景気が減退すれば、当然、税収も減少します。これが公共工事をはじめとする景気対策による支出増とあいまって、財政赤字の拡大を招きました。
 アメリカは、減税と同時に、低所得者向け住宅ローンと住宅担保貸付を一般化することで、貧乏人にも無理やりお金を遣わせて対応しましたが、それがサブプライム問題を招く結果となりました。
 日本ではバブル崩壊後、土地や住宅の担保価値が低くなったままですし、質素・倹約を是とする国民性から、民間消費支出は伸びません。むしろ社会保険負担増やサラリーマン減税の消失など、消費支出を更に減少させる方向に動いています。また、最近の資源価格高騰による物価上昇は、その傾向を更に強めることになるでしょう。

 一方、企業収益は、民間消費支出拡大策をとったアメリカや、中国などの新興国向けの輸出拡大で改善してきました。しかし、最大の消費市場であるアメリカの景気が後退すると、この状況も変わります。
 これに対応するには、内需、特に民間消費支出を拡大するのが一番だと思います。

 そのためには、どうすればいいか?
 一番効果が高いのは、現状を招く大本となった原因の逆をやってやることではないでしょうか。即ち、所得税累進率を上げ、その分、貧乏人の可処分所得を増やすことです。
 可処分所得が増えれば、生活水準を上げて(つーか元に戻して)、支出を増やすでしょう。あるいは、もう一人子供を設けようという気になる夫婦もあるでしょう。少子化対策としても有効だろうと思います。そうして民間消費支出が増えて経済が活性化すれば、税収も当然上がるでしょう。
 企業にとっても、外需だけでなく内需もあるとなれば、事業リスクの低減と共に成長機会の増加がもたらされることになります。
 アメリカにおいて1990年代後半、レーガノミクスの後に行われたクリントノミクスと同様の政策が、現状の日本において効果大であろうと私は思います。

 そうなると、富裕層の勤労意欲や消費支出を削ぐおそれがあるという意見が出てくるでしょう。それには、やはりアメリカの制度が参考になると思います。寄付控除を大幅に認めればよいのです。
 例えば、福祉・介護団体や地方自治体への寄付を控除すれば、現在問題となっている、それらの組織の活動を支援することにもなるでしょう。
 あるいは、ベンチャー企業向けエンジェル投資の課税減免を現状よりも大幅に認めるようにすれば、低迷している起業件数が増え、産業全体に刺激を与えることが出来るでしょう。
 所得の再配分を自己裁量で行う権限を個人に与えることで、逆に富裕層の意識を高めることも可能であろうと思います。
 また、株式投資による収益に対する減税措置を恒久化すれば、停滞する株価対策としての意味も出てくるでしょう。

 え? お前が無職の貧乏人だから、貧乏人優遇策をとって欲しいんだろうって?
 えぇ、まったくその通りですm( )m

2008年3月15日土曜日

セミマクロなハナシ(2)~従来型産業における競争構造

 前回は、事業ドメインの把握や差別化戦略の観点として私が用いたWhat/Whom/Howの三要素を取り上げ、IT分野においてはWhat及びWhomによる差別化に比べHowによる差別化の効果が薄いことを述べました。

 ところが日本の産業全体では、このHowによる差別化が、企業の生き残りや成長を可能にした例が多く見られます。代表的な例が、ソニーとホンダ(四輪部門)です。
 街の電器屋を組織化して磐石の販売網を構築した松下電器に対して、ソニーは放送などのプロフェッショナル用途への浸透と新技術の製品化に先行することで、先進的な企業イメージを作り上げました。
 ホンダはレース参加によるスポーツイメージの確立と同時に、省燃費エンジンの投入などやはり先行技術投入によるイメージ向上を通じて、隙間の無い製品展開をするトヨタや日産を相手に、シェアを拡大しました。
 従来型産業においては、先行する大手企業が存在しても、ビジネスのやり方(How)による差別化で成長を実現することが、不可能ではなかったのです。

 この背景には日本国内における、差別化欲求が強く、かつ厚みのある消費市場があったと、私は考えています。

 日本においては基礎教育の普及度が100%近く、識字率が極めて高い状況にあります。
 テレビやラジオの普及率も高く、新聞や雑誌といった媒体の購読者も多くいます。こうしたメディアは、在京阪キー局や大手新聞・出版社を中心とした少数の企業グループに系列化されています。
 その結果、幅広い消費者に製品やサービスの情報を届けることが、容易になりました。いわゆる「リーチコスト」が、相対的に安い状態が生み出されたワケです。(ここで言う「相対的に」というのは、貿易論の基礎で扱う、各国産業の「相対優位」くらいの意味で考えて下さい)

 また道路整備率も高く、鉄道も充実しています。特に大都市圏では、極めて高度に交通網が整備されています。
 物流に関わる事業者が多く、サービスレベルは高い水準にあります。
 短時間に商品を運ぶことが出来ることから、物流に係るコストも相対優位にあると考えられます。

 コストが相対的に安価であれば、ブランド力や技術力の面で競争力が弱い企業でも、製品やサービスの価格を下げて生き残る機会が多くなります。
 但し、それでも消費者が受け入れてくれなければ、企業は存続できません。

 日本の人口は1億人を超えています。しかも、大都市圏周辺部に集中しています。
 更にかつては、高い所得税累進率による所得再分配によって、可処分所得はフラット化されていました。近隣住民と同レベルの生活水準を維持することは、それほど困難ではありませんでした。「1億総中流」と言われていた位です。1億人の人口のかなりの部分が、有効需要として機能していました。
 そういう状況下では、生活水準の均一化を求める一方で、その中身において他者と差別化する欲求が生まれます。上で述べたソニーやホンダが伸びたのは、このような条件が、背景にあると思います。

 また、可処分所得がフラット化されていたとはいえ、どうしても差は生じます。しかし、中流意識があると、生活水準は同レベルにしたい。そのような場合、どうするか。
 例えば家電であれば、松下の製品が買えなければ、日立や東芝の製品にすればいいのです。それも買えなければ、シャープや三洋の製品にすればいい。
 同機能・同性能の製品を安価に提供する企業の存在意義が、ここにあったワケです。

 結果として、存続機会と存在意義の両面が満たされることで、産業が成熟した後も、日本には他の先進国に無い程の数の企業が残りました。
 これは上で述べた家電だけではなく、自動車でも他の産業でも同じことです。
 ちょっと前にワールドビジネスサテライトでどなたか(ボスコンの御立サンかJRIの高橋サンだったような気が…)が「日本の食料品業界で、国際競争力の無い企業が多く残っているのは謎」とおっしゃってましたが、私の仮説はこんな感じ。実証できませんけどねw

(以下、次回)

2008年3月14日金曜日

セミマクロなハナシ(1)~差別化戦略の考え方

 これまで三回に渡って、成長戦略としての多角化を中心にIT企業を見てきました。それでは、その「多角化」とは、そもそも何なのでしょうか。
 様々な見方があるでしょうが、私は「現在とは異なる事業ドメインを企業ないしは企業グループの中に取り込むこと」と考えています。

 ここで言う「事業ドメイン」は、「企業が行う事業をモデルとして捉えたもの」程度のイメージです。そのモデル化手法も、自分や受け手に分かり易ければ、どんなものでもいいと思います。5W2Hで考えてもいいし、4P/3C(マーケティング論において事業ドメインを見る考え方)で捉えてもいい。
 私自身は、こうしたモデル化においては、より少ない要素に単純化した方が、理解が容易だと思っています。
 そのため、投資家やVC向けに事業説明をするためのアドバイスを未上場企業サンに対してするトキ(応募してみた大手コンサル屋サンにはキャリアとして認めて頂けませんでしたが…orz)や、若いモンにIB業務の基礎としての経営戦略論を教える際には、

  • What(何を)

  • Whom(誰に)

  • How(どう売るのか)


の三点を明確にするように言ってきました。
 これは、事業ドメインの把握を容易にすると共に、その差別化要素を明確化することを目的としたものです。

 企業の経営戦略の見方の一つに、価格競争力向上(コスト・リーダーシップ)と差別化に二分して捉える考え方があります。
 前者は生産・販売数量の極大化などの手段によって単位コストを削減し、同業より優位な価格戦略をとる手法です。
 一方後者は、製品やサービスに競合他社と異なる性質を持たせることで、単一ユニット当たりの付加価値を向上させる手法です。
 私が使ってきた事業ドメインモデル(What/Whom/How)は、後者の差別化策の捉え方として用いることができます。その中では、先に挙げた方が差別化要素として強く、資本市場においても投資家に対してアピールし易いものと考えられます。
 上で述べた未上場企業サン向けの説明では、ITバブル期に高く評価された数社を例に取りました。

 第一の要素-Whatによる差別化を達成した企業として、ヤフーと楽天を挙げました。
 ヤフーも楽天も、サービス開始当初に同業他社が無かったワケではありません。
 但し、ヤフーは、数多あった検索エンジンの中で、ポータルサイトとしてのサービスを拡充させた最初の例と言えるでしょう。
 また楽天は、多くの企業を対象に手広くサービスを提供して、ECモールというサービスを産業としての位置付けまで引き上げた存在と言えると思います。
 このカテゴリーに含まれる最近の例としては、SNSサービスのMixiや携帯電話用ゲームSNSのDeNAが挙げられるでしょう。

 第二の要素-Whomによる差別化は、要は「儲けさせてくれるお客を見つける」というコトです。顧客の事業成長に伴って、自社の事業も成長するパターンです。例としてはメガチップスと鷹山が挙げられるでしょう。いずれも、カスタムLSIのファブレスメーカーでした。
 前者は任天堂に対してゲーム用LSIを売り、後者はNTTドコモに対して携帯電話ネットワーク用LSIを売ることで、業績を伸ばしました。任天堂はゲーム市場のトップベンダーでしたし、携帯電話の普及期においてNTTドコモは圧倒的なナンバーワンでした。
 特に後者の、NTTドコモとの関係が切れた後の迷走が、優良顧客確保の重要性を改めて認識させてくれます。

 第三の要素-Howによる差別化は、IT分野において有効ではありません。
 いわゆる「ネットワーク外部性」が働くことで、同種のサービスを行う企業の中で勝ち残れるのは少数に限られます。差別化が弱ければ、先行企業に追いつくことは不可能です。
 ヤフーや楽天が急成長している頃、ポータルサイトやECモールで、ターゲット顧客層を絞ったり商品調達の方法にヒネりを加えたりして起業する例が多く見られました。
 そうした企業の社長サン達の中には「ヤフーや楽天なんか、すぐに抜かして見せますョ。ハッハッハ~」とおっしゃっていた方もおられましたが…
 結果は御覧の通りです。
 ですから、私は未上場企業サンに対して「他社と十分差別化できるだけのWhatか、中長期的な成長を支えてくれるようなWhom、できれば前者を見つけましょう」というハナシをしてきました。
 後に「ブルーオーシャン戦略」つー考え方が世に出たトキには、「誰でも考えるコトは大差無いネェ」と思ったものです。

(以下、次回)

2008年3月7日金曜日

ついでにちょっとライブドア

 楽天・ソフトバンクと来たので、今回はそれら二社と共にIT御三家と称された、かつてのライブドアホールディングス(以下「同社」)について。
 とはいっても上場廃止によって直近の業績は非開示になってしまったので、かつての成長期における多角化戦略についてのみ、チョイと見てみます。


 水平展開型の楽天や垂直統合型のソフトバンクと比較した場合、同社の多角化戦略の特徴は、個々の参入事業の関係が薄いことです。
 これこそ「コングロマリット」と呼ぶべきでしょう。
 M&Aによって急成長したということで一括りにされることもあった同社と楽天・ソフトバンクですが、ちょっと分析してみると三「社」三様のあり方が見えてきて、面白いですね。

 同社の多角化戦略で違和感を感じるのは、同じカテゴリーの企業間でもシナジーを効かせようとする意図がまるで見えなかったことです。
 プロジーグループを抱えてLindowsというプロダクトを持っていながらターボリナックスを買収したり、セシールを傘下に収めても本体のポータルサイトを介したECサービスとの連携をしなかったり。
 こうした方向性の見えない多角化はどのような意図に基づいて行われたのか、あるいは、そもそも方向性を持った多角化戦略があったのか否か…
 できることならば、堀江元社長に伺ってみたいものです。

 さて、同社が「暴走」とも言われる、こうした強引な事業拡張に走ったのには、様々な理由があると思います。
 その中でも大きな要因の一つに、グループの核(コア)となるべきであった起業事業がスペシャリティを喪失してしまったことがあるのではないでしょうか。

 同社の起業事業は、Webサイトの構築受託です。
 当該事業、特にECを中心とした分野に関するそれは、インターネット普及期(1990年代後半)において「SIPS(Strategic Internet Professional Servece)」と呼ばれ、急成長を期待されていた分野でした。
 代表的な企業としては同時期の同社の他に、IMJや旧ネットイヤーグループ等があります。
 ところが2000年代に入って、ITバブル崩壊の一方でインターネット利用が一般化しました。
 その過程で、それまでインターネットに対応しきれなかった既存のシステム開発受託企業(SI事業者)が、インターネットへの対応を進めました。
 その結果、事業としてのスペシャリティを喪失すると共に、2002年末には、株式市場における評価(PERベース)も、既存のSI事業者に対するそれと同程度にまで落ちてしまいました。

 ネタバレしちゃうと私は当時、機関投資家サンに対してそういう話(「SIPS企業は今後、既存のSI事業者と同様に評価すべきだ」つーハナシ)をしたんですね。
 その頃の私は未上場企業のリサーチャーであって、機関投資家向け情報発信をする証券アナリストではなかったのにw

 いずれにしても、2001~2002年にかけて、起業事業は求心力を失ってしまいました。
次の核として2002年11月に旧ライブドアを吸収してポータル事業に進出したワケですが、当該事業は競合が多い上に絶対的な強者(Yahoo)が存在します。
 そのため、なにがしかの差別化策が必要な状況でした。
 その差別化策としては、ポータル上でどのようなサービスを提供するか、という形で楽天同様の水平型の多角化を志向するのが順当な戦略だと思うのですが…
 同社の場合、それが行き過ぎてしまったのではないか(多角化のための資金調達法も含めて)と推測できます。
 本当のトコロは堀江元社長しか知り得ないワケですが、おそらくは永遠に謎のままなんでしょうね。

2008年2月29日金曜日

ソフトバンクに感じる不安

 前回は楽天を取り上げましたが、今回は対比されることが多いソフトバンク(以下「同社」)を見てみましょう。
 かつて我々が親しみを込めて「日本蕎麦」(旧称「日本ソフトバンク」の略)と呼んでいた同社ですが、当時と今ではその姿を大きく異にしています。

 これは楽天と同様、M&Aでの多角化によるものですが、その有り様は大きく違います。
 楽天の多角化が水平方向の事業拡大と分析できるのに対し、同社のそれは垂直統合と見ることができます。
 携帯電話及びインターネットという通信インフラの上で、各種サービスを提供するというものです。
 尤も、同社は最初からそうした方向性を指向してきたわけではありません。
 あおぞら銀行への出資(2000年)やメモリメーカーの米Kingstone Technology社買収(1996年)など、水平型の事業拡大を指向したものの収益化に到らず、失敗事例を繰り返してきました。
 テレビ朝日買収のように、M&A自体が不成功に終わったこともありました。
 そうした試行錯誤の末、2006年8月に金融部門のSBIホールディングスを手放すことで、ネットワーク関連事業への「選択と集中」をするに到りました。


 ただし、垂直型に統合された事業の中の各レイヤーの重みは、均等ではありません。同社の売上や利益(営業利益ベース)の過半は、携帯電話事業から得られています。
 当然、当該事業には他の事業よりも注力することになります。とはいえ、その選択肢には制限が加えられます。

 2006年4月の携帯電話事業の買収に、同社は1兆7,500億円もの巨額の資金を費やしました。
 これは、買収直前期(2006年3月期)の旧ボーダフォンの売上(約1兆4,700億円)を超える金額であり、当期利益(約500億円)の35倍に達する金額です。
 自力参入計画から1年前倒しの事業開始や顧客獲得・機器調達網及び営業体制の整備といった手間を省くという、典型的な「時間を買う」意味があったとはいえ、売上・利益共に低下傾向にあった旧ボーダフォンに対する実績PER35倍の買値は、少々高くついたように思われます。
 その資金調達には、携帯電話事業自体を担保としたノンリコースローン型の借入を用いました。
 2006年9月末に同社はこれを、携帯電話事業の証券化という形で、当該事業のキャッシュフローを返済原資とする借入に切り替えました(約1兆3,551億円分)。
 従って同社は、携帯電話事業から継続的にキャッシュフローをあげ、これを返済に充てる必要があるわけです。
 ADSLの時のように赤字覚悟の価格戦略で顧客を囲い込み、収穫期を待つ戦略は取れません。
 2008年1月開始の「ホワイト学割」でようやく基本料金の大幅割引(というか無料化)に手を付けましたが、その対象は通話やメールを多く利用し、お金を落としてくれる学生サンだけです。
 それ以外にも家族間通話無料など各種の「プラン」を打ち出してはいますが、他社も追随してきており、十分な差別化がなされているとは言い難い状況です。
そうした状況下で当該事業に関する証券化部分の返済実績はというと、2008年3月期の第3四半期までに約600億円となっています。
 このペースが維持できたとしても、返済完了まで14年かかりますね。今後、携帯電話事業の価格競争が激化した場合、それ以上に伸びることになります。


 それでは、資金調達スキームを変えることで戦略上の制限を軽減することができるかというと、これも難しい。
 前回取り上げた楽天と比べると明らかですが、主に借入と債券によって資金を調達してきた同社の有利子負債の残高は巨額になっています。そのため、支払利率も高いものになっています。
 従って、携帯電話事業を原資とした借入を、他の借入と一本化することはできません。
 また、株式市場が停滞している現状では、大規模なエクイティファイナンスも困難です。
 結果として同社はこのまま、携帯電話事業のキャッシュフローを極大化して、返済を進める必要があるわけです。


 さて、2006年3月期に、同社は経常利益及び当期純利益の黒字化を果たしています。
 これには、広告売上などのインターネット・カルチャー事業の増益と並んで、ブロードバンドネットワーク事業の営業黒字化が大きく寄与しています。
 ADSLの普及期には新設回線のために設備投資が必要であったため、売上拡大が利益に結び付きませんでした。
 普及期が終わり、売上に対して大きな設備投資が不要な収穫期に入ったことから、同事業の営業黒字化がもたらされたのでしょう。
 皮肉なのは、収穫期に入ったと同時に、競合次世代技術である光回線(FTTH)が普及期に入ってしまったことです。今後、ADSL事業からの収益拡大は期待できません。
 同社が光回線で同様の回線再販事業を行うには、NTTからの回線借受と再度の設備投資が必要となります。
 それを最小限に抑えるために光回線の1分岐借りを申し入れているのですが、その決着が付くまでは、もう少し時間が必要でしょう。
 従って現状は、ネットワーク事業自体で成長を追及できる状況ではありません。むしろADSLの顧客をFTTHに奪われる状況が続くおそれがあります。
 また、Wi-MAX枠の獲得競争には敗れてしまいました。
 これはリッチコンテンツの流通網確保の点ではマイナスですが、キャッシュフロー面では、追加投資を抑えられたことが同社にとっては却ってよかったかもしれません。

 こうした状況下で同社が他社と差別化して成長を追及するためには、垂直統合されたビジネスモデルの上位レイヤー即ちコンテンツによって、下位レイヤー即ちネットワーク・携帯電話事業の顧客の囲い込みを図る必要があるでしょう。
 孫社長がおっしゃるところの「総合力」を発揮することが重要なわけです。
 しかし現状では、「総合力」が発揮されているとは言い難い状況です。
 例えば、Yahooのポータルサービス~掲示板・オークション等ではアパターが利用可能ですが、同じアパターをIMや携帯電話のメールで使ったり、そのアパターを使うゲーム(PC・携帯電話とも)をガンホーで提供する等のサービスは、本来であればとっくに提供されていてしかるべきだと思います。
 そのアパターのデザインのカスタマイズで課金するとか、そのカスタマイズに応じたリコメンデーションで物販に繋げるとか、収益機会を全て取り込む姿勢が必要ではないでしょうか。
 そうした取り組みが為されていないということは、グループ各社が協力してシナジーを生み出すための施策が行われていないということだと考えられます。
 グループ各社に高い自由度を認めることで、より高レベルのクリエイティビティの発現を期待するのも、一つの考え方でしょう。
 しかし、現状の同社を鑑みると、グループ統制の強化によってシナジーを生み出すことを考えてもよいのではないでしょうか。
 さもなければ今後も、「総合力」の発現は難しいと思われます。

2008年1月29日火曜日

楽天への期待

 前回はUSENを褒めた感じになりましたが、メディア企業としての次の一手に最もwktkしているのは、USENではなく楽天です。


 楽天(以下「同社」)は、業績を順調に拡大してきました。
 前々期(2006年12月期)まで、売上は増加を続けています。
 前期(2007年12月期)も、第三四半期までの結果から、おそらく増収と予想されます。
 利益の伸びは売上ほどではありませんが、それでも2005年12月期には、当期純利益まで黒字化するに到りました。

 この要因としては、既存事業から周辺事業への進出すなわち多角化が大きく寄与しています。
 多角化は他社の買収という形で進められてきましたが、そのためキャッシュフロー(CF)の観点からは、同社を高く評価することはできません。

 企業買収や新規事業投資を繰り返しているため、投資CFが大きくなり、フリーキャッシュフロー(FCF)は常にマイナスです。
 ソフトバンクと違って同社は、外資系証券会社に「ファイナンス理論!」と言って攻められることで株価が大きく下落することは無かったのですが、これは単にマーケットインパクトの点で劣るということに過ぎないでしょう。
 FCFのマイナス分は、外部調達で埋め合わせることになります。
 資金の外部調達(財務CF)は借入と増資が主な手段ですが、同社は後者を主に用います。
 毎期、FCFの不足分を充当するだけ外部調達を行っているのは、財務統制がうまくいっていることを感じさせます。いきなりキャッシュ不足で不渡りを出すことは無さそうです。
 とはいえ、株価が下落している状態では、これまで通りの多角化戦略は取りづらいことになります。
 また、これまで成長を支えてきた多角化事業が、成長の壁に直面しています。
 証券事業は株式市場の低迷により、クレジット決済事業は市場競争の激化により、短期~中期において急成長は望み難い状況です。

 実際、2007年12月期においては、コア・コンピタンスであるEC事業の売上に占める割合が前期よりも増えています。
 トラベル事業が売上・利益率共に伸びている点は評価に値しますが、比重が小さいので全体に与えるインパクトは大きくありません。
 一方ECは、景気後退は懸念されるものの携帯電話ECの継続的拡大が期待されており、今後もしばらくはこの傾向が続く可能性があります。
 それでも同社は、多角化による成長を追求しています。
 2007年12月期にはフュージョン・コミュニケーションズを買収して電話サービスに乗り出した他、DVD/CDのネットレンタルを始めました。

 こうした同社の多角化戦略を「コングロマリット化」と評する方もいらっしゃいますが、私は違った視点を持っています。
 私は、同社の多角化戦略を、水平型の事業拡大として捉えています。
 企業が行う事業の捉え方は様々ですが、商品やサービスを提供するチャネルと、その上で流通させる商材に分離して見ることも、その一つです。
 そうした見方に立ってみると、同社の多角化の手法は、チャネルを増やしつつ、商材を拡充する戦略として捉えることができます。

 この観点から同社の多角化の経緯を振り返ると、シナジーが期待できる「既存事業の周辺事業への進出」の繰り返しに見えてきます。
 MBAの教科書にでも出てきそうな話ですね。

 2005年10月に仕掛けたTBSの買収も、従来の多角化戦略の継続と捉えることができます。
 動画コンテンツ流通の最大のチャネルである地上波キー局はまた、最大のコンテンツ保有者であり、コンテンツ制作ノウハウの集積点でもあります。
 買収が成功裏に進めば、同社の事業拡大に大きく寄与したことでしょう。
 またタイミング的にも、ライブドアやAmazonなど同業他社との競合に敗れる事例が続いて将来性に不安感が漂い始めていた上、世間の耳目がWeb2.0企業に集まりつつあった時期であり、それらを覆す意味でも絶妙であったと言えます。
 三木谷社長の経営センスは、依然として優れたものであることを感じさせられました。

 それでは、この延長で考えられる今後の戦略には、どのようなものがあるでしょう。
例えば、

  • テレマーケティングシステムの企業を買収し、フュージョンの電話サービスを介して、EC事業の既存顧客にテレマーケティングサービスを提供
  • ネットワークサービスを企業向けに拡大した上でSI事業者を買収し、EC事業の既存顧客向けに業務システムをSaaS提供

などといったところでしょうか。
 私が考えつく程度では、少々面白みに欠ける戦略しか出てきそうもありません。

 面白みという点で期待できるのは、やはりメディア企業としての活動です。
 在京阪の地上波キー局と大手新聞社・出版社を中心とした硬直的なコンテンツ流通に、より幅を持たせる形で変化をもたらすように頑張って欲しいと思います。

 ある産業に変化が起こると、そこに参入する企業に成長機会が生じます。
 その変化は資本市場に及ぶことが多く、証券会社などの金融機関に活躍の場が与えられます。
 そうすれば、私がよりよい形で再就職する機会も出てこようかとw

 ただ、対TBSで突っ張るのも一つの手ですが、今となっては上策とは言い難いでしょう。
 M&Aの失敗の原因としてよく「文化の違い」が挙げられますが、TBSの示した劇症反応は、それが強く現れているように見えます。
 ここで無理をしても、両社に大きく傷を残す結果になるおそれがあると思います。
 それでは、他の選択肢は何があるでしょうか。
 自社で一から立ち上げるのも一つの手ですが、USENいう先行企業に今から追いつくことは、かなり難しいでしょう。
 従って他社との提携が重要となりますが、チャネルとしての有効性とコンテンツの蓄積ないしは調達ノウハウが無いと、意味がありません。
 その意味でキー局ほどのインパクトはありませんが、関東三県の独立UHF局との提携はどうでしょう。
 テレビ埼玉・千葉テレビ・テレビ神奈川の三社は緩やかな提携関係にあり、独自コンテンツの相互流通や、関西地域の独立UHF局も含めたコンテンツの共同開発を行っています。
 このチャネルを利用して同社のEC事業の顧客にTV通販サービスを提供するとか、コンテンツの共同開発に参画してネット配信の部分を担いつつ将来の独自コンテンツ開発に繋げるなどは、有効な戦略ではないでしょうか。
 前者は既存のTV通販事業者と競合する部分がありますが、地域名産の生鮮食料品などは差別化要素になるでしょう。
(…などと考えていたら、2007年末に日本直販がカニ通販に力を入れていて笑ってしまいましたが)
 また、上記各局にとっては、野球やサッカーの地元チームが有力コンテンツの一つです。
 同社も同じコンテンツを抱えており、この点でもノウハウの共有は可能でしょう。

 ただ、こうした事業提携には証券会社が参画する余地が少なく、株屋的に面白いものではありません。
 これも2~3年前であれば、株屋にとって面白い案件にすることも、不可能ではなかったでしょう。
 上記各局にデジタル化投資のためのエクイティ・ファイナンスをしてもらい、それを同社に割り当てる。
 そのための同社の資金調達もまたエクイティで、となれば幹事証券としては二度美味しい。
 なんていう提案もありだったんでしょうが、今となっては遅杉ですねw

 いずれにしても、既にベンチャーの域を脱して大企業になった同社には、自社の成長だけではなく産業全体に変化をもたらすような活躍を期待したいものです。