2008年7月31日木曜日

ヤマダ電機よ何処へ行く?

 北京オリンピックを目前に控え、薄型テレビ商戦が続いています。私も買っちゃいました。日立の37インチ薄型液晶。私がソイツを買ったのは上新電機のネット通販なんですが、今回はソコではなく、同業で代表的な企業つーか最大手のヤマダ電機(以下「同社」)を取り上げます。

 同社は現在、総合小売の大手二社(セブンアンドアイとイオン)に次ぐ売上規模を誇る、専門小売としては最大手の企業です。特筆すべきは、その成長の早さです。ここ10年間で、売上が7倍以上、利益(経常利益ベース)が12倍以上になりました。

 小売の成長モデルとしては、大きく分けて二つの方向性があります。一つは売る場所を増やすこと、もう一つは売るモノの種類を増やすことです。
 前者の方法には、店舗の数を増やすのと、個々の店舗を大型化するものがありますが、大概は両方とも進めていきます。尤も、既存店舗の拡張には限界がありますので、新規店舗として、より大型の店舗を出店するのが一般的です。結果として、まずは店舗数を増やすことが、小売業における基本的な成長戦略となります。
 同社の場合を見てみると、売上増と店舗増がキレイにリンクしていることが判ります。結構高い相関性を持って、出店増による売上拡大を実現しています。とはいえ、ドコでもどんどん出店していけばイイかというと、もちろんそういうワケぢゃない。

 小売屋サンをちょっと調べてみると、その超ドメスティックさに気付きます。同じモノを売るんでも、東京の学生サンに売るのと大阪のオバちゃんに売るんぢゃあ、同じヤり方でウマく行くハズがない、つーコトですな。
 同社の場合は、事業のスタートが群馬なコトから、関東エリア及び隣接する中部エリアが得意なトコです。2000年3月期には、店舗数・売上共に70%以上が両エリアのものでした。その後、出店やM&Aによってその他のエリアでの店舗を増やしたとはいえ、2007年3月期に到っても、両エリアで店舗数及び売上の過半を占めています。特に、関東エリアの占める位置付けが依然として高い点が目立ちます。しかし、これまでの出店戦略は、限界に近づいています。

 同じ商品を扱う店舗が近くにあった場合、顧客の取り合いになります。もともとの同社の出店戦略は、他社既存店のそばに、より大きな、品揃えの良い店舗を作って、ソコのお客さんを奪ってしまうというモノでした。他社との競争ならまだよいのですが、店舗が密集してしまうと、自社店舗同士での顧客の取り合い(カニバリゼーション)が生じるおそれがあります。
 私はさいたま市南部在住なのですが、ウチからクルマでちょいと行ける範囲に、同社の店舗が5つありますw 既に「カニバリ★上等」な状況と言えるでしょう。この地域には同社以外にも、でんきちやらコジマやらケーズやら、同業他社の店舗が数多くあります。さすがに、飽和状態と言わざるを得ません。
 それでは周辺地域に行けばイイかというと、今度は地域人口が少ないので、出店効果が下がってしまいます。関東以外の地域では、そのエリアを得意とする電器屋サン(中部・中国地方のエディオンとか、関西の上新電機とか)との競合が生じます。
 また、ガソリン価格の高騰で自動車利用の減少傾向が出てきており、郊外の幹線道路沿いに出店する「ロードサイド型」の戦略を取って来た同社や同業他社には、逆風が吹いていると言えます。

 そこで注目されるのが、いわゆる「都市型店舗」の展開です。上記のロードサイド型に対して、主にターミナル駅の徒歩圏に出店するのが、都市型店舗です。ただ、カテゴリー分けされているというコトは、既に当該分野に競合他社があるワケで。カメラ屋さん出自の、ヨドバシカメラやビックカメラ(以下「ビック」)等が、コレにあたります。ここでも同社は、池袋や高崎でビックの目の前に都市型店舗「LABI」を出店して、ケンカ売ってますw

 とはいえ、同社が得意なロードサイド型と、ビックみたいな都市型では、チョイとビジネスの有り様が違います。ソレが端的に現れているのが、商品群別売上構成。電器屋サンの成長が、PC及び携帯電話の普及や、その後のAV家電のデジタル化による代替を背景としてるため、AV機器が結構な割合を占めてるのは同じなのですが、それ以外がチト違う。
 ロードサイド型だと、週末にクルマで乗り付けた家族が、冷蔵庫とかエアコンとかの白物家電を買ってくイメージ。一方の都市型は、単身者がノートPCとか携帯電話を買って、ソレ持って電車に乗って帰るイメージで捉えると、大体合ってるんでは無いかと。
 また家電以外の部分も、ビックのソレは同社のソレの倍以上の比率を占めています。例えば有楽町ビックにはゴルフ用品売り場があって、平日の昼間からおぢさま達で結構賑わってたりする(私が立ち寄ったトキにたまたまそうだったのかもしれないスけど)んですが、同社にソレをすぐヤれつーても、無理というモンでしょう。
 後発の同社が、中心顧客層の違いから生じる、売りモノの違いによる売り方の違いをフォローアップするには、ちょっと時間を要するんではないでしょうか。それから、都心部だけに土地確保の問題があって、コジマとかラオックス相手にうまくいった「後からもっとデカい店を出す」テが使いにくいのも、同社にとってはツラいトコですね。

 私自身はLABI池袋には行ったコトはないのですが、LABI新橋は行きました。ちょっと前に、とある金融機関に面接に行った帰りに(ソコは2次面接でハネられちゃいましたorz)寄ってみたんですが、あんまりパッとしないなぁ…つーのが第一印象。LABIなんばの苦戦も伝えられていますし、もし機会があれば「ぶっちゃけLABIどうョ?」つーのは訊いてみたいトコですねぇ。

 というコトで、従来の成長戦略は壁にぶち当たりつつありますし、都市型店舗展開をウマくやるには、もうちょっと時間がかかりそうです。そんな中でも、高成長を背景に外人サンの持ち株比率が高まっちゃった同社としては、ソレが売られるのを防ぐ意味でも、継続的な成長戦略が必要なワケで。必然的に、二番目の成長戦略である、売りモノの種類を増やすコトを考えることになります。
 最近では自動車販売への参入なんゾを発表して話題になったりしてマスが……私としてはその前に、既に買った会社のリソースの有効利用を考えた方がヨカったんぢゃない?とか思ったりします。

 自動車をロードサイドの電器店で売る、つーコト自体は、悪くない発想だと思います。来店する顧客はクルマで来るワケで、その時点で自動車販売の潜在顧客。価格面での優位性が重要なのはもちろんですが、それ以外に、駐車場なり屋上なりで複数メーカーの同ランク車を比較試乗できる、とかの差別化要素を打ち出せればイイ。ついでにカーオーディオとかカーナビなんかのアクセサリ電機類も合わせて売れば、もっとイイ。ですが、既存店でソレをできるトコは少ないでしょう。新規店が中心になるんでしょうが、出店限界が近い上に自動車利用自体が減少傾向にある状況下では、成長戦略としての有効性には疑問符が付きます。ソレよりも、都市型店舗での取り扱い商品の差別化が効くんではないかと思うんデスょ。
 その意味で、2007年9月に、キムラヤセレクト(以下「キムラヤ」)を同社が買収したコトには注目してたんですが…。

 ブランド物の衣料品やバッグ・アクセサリを扱ってたキムラヤは、電器店の業態転換としては成功例だったと思います。携帯電話の近くにブランド物のネクタイが置いてあるのは、面白い空間でした。ケータイの様なライトな電気製品とブランド物って、購買層がかなりかぶると思うんです。商品の選択基準でカタチだったり色だったり手触りだったりが優先度高い点も、同じですょね。例えば、ブランドスーツの展示用マネキンの首からストラップでケータイ下げて展示するとか、PRADAのバッグとPRADA携帯を組み合わせて売るとかがあっても面白かったんじゃないでしょうか。まぁ実際は、ブランド物の取り扱いは縮小する方向のようですが。
 また、キムラヤにはドラッグストア部門もあります。電機の中でも衛生・美容・健康用品と合わせた売り場展開なんかも考えられたんではないでスかね。

 それから、2002年に買収した、ディスカウントストアのダイクマのノウハウも、使わないともったいないでしょう。電気製品だけであれば取引先は限定的で、これまで同社が伸びてきた一因である、パワーゲーム(ココでは、大量販売を背景とした、仕入先との値下げ交渉)を通じた原価低減でイけます。しかし、多品種展開をするなら、そうはイかない。バイヤーの育成とか問屋との関係構築とか、ヤらなきゃいけないコトはいっぱいあるワケですが、ソレってダイクマでは既にヤってるハズですよね? ロードサイド店で多品種展開するなら、自動車よりも、例えばインテリア家具(確かダイクマで扱ってたと思うんデスけど)なんかの方が、親和性は高いでしょう。それ以外にも、食品類の売り場で調理家電をデモする、なんつーのもアリかもしれない。

 ……などと、その可能性についてイロイロと考えるコトは出来るんですが、いずれにしても、予想にすらなってません。
 株価のリカバリーもインデックスより大分遅れています(2008年7月末時点)し、同社自身が新たな成長戦略をアピールするコトが、そろそろ必要なんぢゃないですか?