2008年1月29日火曜日

楽天への期待

 前回はUSENを褒めた感じになりましたが、メディア企業としての次の一手に最もwktkしているのは、USENではなく楽天です。


 楽天(以下「同社」)は、業績を順調に拡大してきました。
 前々期(2006年12月期)まで、売上は増加を続けています。
 前期(2007年12月期)も、第三四半期までの結果から、おそらく増収と予想されます。
 利益の伸びは売上ほどではありませんが、それでも2005年12月期には、当期純利益まで黒字化するに到りました。

 この要因としては、既存事業から周辺事業への進出すなわち多角化が大きく寄与しています。
 多角化は他社の買収という形で進められてきましたが、そのためキャッシュフロー(CF)の観点からは、同社を高く評価することはできません。

 企業買収や新規事業投資を繰り返しているため、投資CFが大きくなり、フリーキャッシュフロー(FCF)は常にマイナスです。
 ソフトバンクと違って同社は、外資系証券会社に「ファイナンス理論!」と言って攻められることで株価が大きく下落することは無かったのですが、これは単にマーケットインパクトの点で劣るということに過ぎないでしょう。
 FCFのマイナス分は、外部調達で埋め合わせることになります。
 資金の外部調達(財務CF)は借入と増資が主な手段ですが、同社は後者を主に用います。
 毎期、FCFの不足分を充当するだけ外部調達を行っているのは、財務統制がうまくいっていることを感じさせます。いきなりキャッシュ不足で不渡りを出すことは無さそうです。
 とはいえ、株価が下落している状態では、これまで通りの多角化戦略は取りづらいことになります。
 また、これまで成長を支えてきた多角化事業が、成長の壁に直面しています。
 証券事業は株式市場の低迷により、クレジット決済事業は市場競争の激化により、短期~中期において急成長は望み難い状況です。

 実際、2007年12月期においては、コア・コンピタンスであるEC事業の売上に占める割合が前期よりも増えています。
 トラベル事業が売上・利益率共に伸びている点は評価に値しますが、比重が小さいので全体に与えるインパクトは大きくありません。
 一方ECは、景気後退は懸念されるものの携帯電話ECの継続的拡大が期待されており、今後もしばらくはこの傾向が続く可能性があります。
 それでも同社は、多角化による成長を追求しています。
 2007年12月期にはフュージョン・コミュニケーションズを買収して電話サービスに乗り出した他、DVD/CDのネットレンタルを始めました。

 こうした同社の多角化戦略を「コングロマリット化」と評する方もいらっしゃいますが、私は違った視点を持っています。
 私は、同社の多角化戦略を、水平型の事業拡大として捉えています。
 企業が行う事業の捉え方は様々ですが、商品やサービスを提供するチャネルと、その上で流通させる商材に分離して見ることも、その一つです。
 そうした見方に立ってみると、同社の多角化の手法は、チャネルを増やしつつ、商材を拡充する戦略として捉えることができます。

 この観点から同社の多角化の経緯を振り返ると、シナジーが期待できる「既存事業の周辺事業への進出」の繰り返しに見えてきます。
 MBAの教科書にでも出てきそうな話ですね。

 2005年10月に仕掛けたTBSの買収も、従来の多角化戦略の継続と捉えることができます。
 動画コンテンツ流通の最大のチャネルである地上波キー局はまた、最大のコンテンツ保有者であり、コンテンツ制作ノウハウの集積点でもあります。
 買収が成功裏に進めば、同社の事業拡大に大きく寄与したことでしょう。
 またタイミング的にも、ライブドアやAmazonなど同業他社との競合に敗れる事例が続いて将来性に不安感が漂い始めていた上、世間の耳目がWeb2.0企業に集まりつつあった時期であり、それらを覆す意味でも絶妙であったと言えます。
 三木谷社長の経営センスは、依然として優れたものであることを感じさせられました。

 それでは、この延長で考えられる今後の戦略には、どのようなものがあるでしょう。
例えば、

  • テレマーケティングシステムの企業を買収し、フュージョンの電話サービスを介して、EC事業の既存顧客にテレマーケティングサービスを提供
  • ネットワークサービスを企業向けに拡大した上でSI事業者を買収し、EC事業の既存顧客向けに業務システムをSaaS提供

などといったところでしょうか。
 私が考えつく程度では、少々面白みに欠ける戦略しか出てきそうもありません。

 面白みという点で期待できるのは、やはりメディア企業としての活動です。
 在京阪の地上波キー局と大手新聞社・出版社を中心とした硬直的なコンテンツ流通に、より幅を持たせる形で変化をもたらすように頑張って欲しいと思います。

 ある産業に変化が起こると、そこに参入する企業に成長機会が生じます。
 その変化は資本市場に及ぶことが多く、証券会社などの金融機関に活躍の場が与えられます。
 そうすれば、私がよりよい形で再就職する機会も出てこようかとw

 ただ、対TBSで突っ張るのも一つの手ですが、今となっては上策とは言い難いでしょう。
 M&Aの失敗の原因としてよく「文化の違い」が挙げられますが、TBSの示した劇症反応は、それが強く現れているように見えます。
 ここで無理をしても、両社に大きく傷を残す結果になるおそれがあると思います。
 それでは、他の選択肢は何があるでしょうか。
 自社で一から立ち上げるのも一つの手ですが、USENいう先行企業に今から追いつくことは、かなり難しいでしょう。
 従って他社との提携が重要となりますが、チャネルとしての有効性とコンテンツの蓄積ないしは調達ノウハウが無いと、意味がありません。
 その意味でキー局ほどのインパクトはありませんが、関東三県の独立UHF局との提携はどうでしょう。
 テレビ埼玉・千葉テレビ・テレビ神奈川の三社は緩やかな提携関係にあり、独自コンテンツの相互流通や、関西地域の独立UHF局も含めたコンテンツの共同開発を行っています。
 このチャネルを利用して同社のEC事業の顧客にTV通販サービスを提供するとか、コンテンツの共同開発に参画してネット配信の部分を担いつつ将来の独自コンテンツ開発に繋げるなどは、有効な戦略ではないでしょうか。
 前者は既存のTV通販事業者と競合する部分がありますが、地域名産の生鮮食料品などは差別化要素になるでしょう。
(…などと考えていたら、2007年末に日本直販がカニ通販に力を入れていて笑ってしまいましたが)
 また、上記各局にとっては、野球やサッカーの地元チームが有力コンテンツの一つです。
 同社も同じコンテンツを抱えており、この点でもノウハウの共有は可能でしょう。

 ただ、こうした事業提携には証券会社が参画する余地が少なく、株屋的に面白いものではありません。
 これも2~3年前であれば、株屋にとって面白い案件にすることも、不可能ではなかったでしょう。
 上記各局にデジタル化投資のためのエクイティ・ファイナンスをしてもらい、それを同社に割り当てる。
 そのための同社の資金調達もまたエクイティで、となれば幹事証券としては二度美味しい。
 なんていう提案もありだったんでしょうが、今となっては遅杉ですねw

 いずれにしても、既にベンチャーの域を脱して大企業になった同社には、自社の成長だけではなく産業全体に変化をもたらすような活躍を期待したいものです。

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