2008年3月26日水曜日

続く総合電機メーカーの再編

 先に扱った旧IT御三家のように、依然として成長業種であるIT分野においては、多角化が進んでいます。一方で、成熟業種では逆の動きが見られます。
 例えば携帯電話事業で最近見られた例として、ソニー・エリクソンのNTTドコモ向け事業縮小や三菱電機の撤退が挙げられます


 後者の三菱電機は携帯電話だけではなくテレビや冷蔵庫・洗濯機といった家電や、発電機や工場用空調機などの産業用電気製品まで、幅広い製品を提供しています。
 また、それらの完成品(SET)を提供するだけではなく、液晶モジュールなどの機能部品(DEVICE)やLSI・ICといった部品(PARTS)の製造・販売を行っています。
 こうした企業を総合電機メーカーと呼ぶのですが、その「総合」たる所以は、このように水平・垂直両方向に多角化された事業形態にあります。

 電機製品は、機能部品を組み立てて製造されます。機能部品は、部品の集まりです。
 さてここで、最終的な製品利用者である消費者のニーズは、最終製品の販売者や製造者にぶつけられます。そのニーズが分かれば、部品や機能部品の開発をニーズの高い部分に合わせて行うことで、最も無駄のない投資ができることになります。
 この際、最終製品と機能部品及び部品の製造機能が単一の企業ないしは企業グループの中にあれば、消費者ニーズが部品や機能部品の開発・製造部門に届き易くなります。
 また逆に、最終製品部門が需要者となって、部品や機能部品の開発・製造を実現するための最低ロットを捌く先になります。
 これが電機分野において垂直統合が進んだ、一つの大きな要因ではないかと、私は考えています。

 それでは、水平方向の多角化についてはどうでしょうか。
 総合電機が複数の製品群を持つ理由の一つに、機能部品や部品の共用化による効率の向上があると思います。
 例えば音声出力用ICは、PCのみならず、エアコンにも工場の制御パネルにも、その他数多くの用途にも流用できます。自社内に数多くの製品群を持ち、それらに当該部品を使えば、生産数量を増やし、その結果として開発・製造単価を下げることができます。
 こうした理由によって、電機産業の総合化が進んだのであろうと考えられます。

 しかし、先進国において電機製品の普及過程が終わって産業が成熟化し、消費者ニーズが高度化すると、状況は変わります。
 求められる機能が先鋭化し、それに対応するために、個々の機能に強い、あるいは特徴ある機能を持つ部品が増えました。
 当該機能を最終製品に持たせるためには、その部品を外部から調達する必要があります。

 更に産業の成熟化が進み、消費者が求める機能がほぼ満たされた状況になると、メーカー側が新たな機能を提案し、需要を創出する段階に移ります。例えばエアコンの自己清掃機能とかマイナスイオン発生機能などは、メーカーが提案して当たった例と言えるでしょう。
 アタればいいのですが、ハズしてしまうと開発投資が無駄になります。事業リスクが拡大したわけです。(事業リスクが高くなると企業分化が進むという傾向があるのですが、この点については、いずれまた機会があれば述べることにします)
 こうした状況下で最終製品・機能部品・部品を自社製品で固めていると、リスクはより高くなります。例えば最終製品である携帯電話のある機種が売れなかった場合、当該機種専用に開発した液晶ディスプレイやDSPなどは、全て無駄になってしまいます。
 これに対応するために、部品や機能部品をメーカー間で相互に調達・販売することで、得意分野に特化する形での合理化が進みます。その際、当該製品の相互利用を可能にするため、いわゆる「標準化」が進みます。
 このように部品や機能部品を外部調達に切り替えることで、最終製品の失敗に対するリスクを下げることができます。
 一方、他社製部品・機能部品より高機能かつ安価に提供できれば、外部提供を増やすことで量産効果を生み出すことができます。
 ここに到って、電機分野における垂直統合の意味は、かなり薄くなったと言えるでしょう。

 また消費者の要求が高度化することで、製品群をまたいで共用可能な部品・機能部品は減少します。
 水平方向における多角化の面からも、電機分野において総合化の意味は薄れてきたと言えましょう。

 2007年に続いて2008年の第一四半期も、上に挙げた携帯電話事業の例をはじめ、電機メーカーの事業撤退や再編に繋がるニュースが目立ちました。
 多くの方がおっしゃているように、今後もおそらくこの傾向は続き、「選択と集中」による電機メーカー各社の再編が更に進むと、私も思います。

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