2008年5月29日木曜日

ダイヤモンドは鈍く輝く~三菱電機

 電機業界における総合化の意味の低下を扱った回では、三菱電機(以下「同社」)の携帯電話事業撤退に触れました。
 電機と一言で言っても、その範囲は幅広く、非常に多くの種類の製品が製造・販売されています。これを産業として捉える場合、いくつかの製品群に分けて考えることが多いのですが、PCや携帯電話などの情報機器、洗濯機や掃除機などの白物家電、FAシステムや工場用電子機器といった産業用電機、発電システムやエレベータ・エスカレータをはじめとした重電などが、これにあたります。
 それら全てをカバーする企業を「総合電機メーカー」と呼びますが、その区分に入るのは、日立製作所(以下「日立」)・東芝・同社の三社です。


 これら三社の業績の推移を見ると、三者三様の変化を見て取れます。
 事業規模を拡大する日立ですが、利益面では二期連続の当期純利益ベースでの赤字を計上しています。東芝は売上面での拡大は日立ほどではありませんが、利益面では順調な伸びを示しています。一方同社は、売上は横這いから微増という程度ですが、東芝と同等の利益の伸びを見せ、利益率の面では三社で最も高い水準にあります。

 こうした変化の要因に、三社の事業構成の違いがあると思われます。

 三社が公開するセグメント情報が異なるので、厳密な比較はできません。ただ、産業向け・民生機器・サービスその他という形に大きく分けて考えることはできます。そうした比較をした場合、同社の産業向け比率の高さが際立っています。
 民生機器における、薄型テレビの急激な価格低下に代表されるコモディティ化の影響を同社が最も受けていないというコトが、現状にいたる要因の一つと言えましょう。


 さらに、同社のセグメント別利益率の推移を見ると、この間に対売上比率で最も増えた産業メカトロニクス分野の利益率向上が目立ちます。再編によって不採算事業を切り捨てる一方で、儲かるようになった事業が売上を伸ばした結果が、総合電機の中における現在のポジションに結びついたワケです。
 同社が電機セクターにおける「選択と集中の優等生」と評される所以でしょう。



 では、その変化はどのようなものでしょうか。この間における同社の産業メカトロニクス分野の主要製品群(決算短信記載分)の変化を見ると、「FAシステム」が抜けて「無停電電源装置」が入っているくらい。ですが、当該分野を担当するグループ企業を見ると、三菱エレクトリック・タイ・オートパーツ社とか三菱エレクトリック・オートモーティブ・チェコ社とか、カーエレクトロニクス製品製造の海外子会社が増えているのが目立ちます。
 製品群別売上高が分からないので確かなコトは言えませんが、自動車部品が同社の産業メカトロニクス分野の売上拡大と利益率向上に大きく寄与しているコトが推測されます。前世紀末から続く変化として、自動車産業のグローバル化が一つの大きな潮流になっているのですが、その恩恵が現れているのではないかと思われます。近しい企業グループ内に、自動車メーカーがありますしね。この推測が正しければ、インド・中国やロシア・東欧などで更に自動車産業の拡大が見込まれる中で、この傾向は更に続き、利益率の面における同社の優位性は更に高まる可能性があると言えます。同社は当面の間、電機セクターの中で勝ち組企業であり続けるでしょう。

 しかし、株式市場はこれを高く評価しているとは言い難い状況にあります。

 株価の推移を相対値で見てみると、底値であった2003年から直近のピークであった2007年にかけて、最も評価を上げたのは同社であったことは確かです。ただ、2007年末以降の株価推移は、総合電機3社の間に大きな違いはありません。

 これは、株式市場の人気投票としての一面が強く現れているのであろうと、私は思います。
 より分かり易く、より目立つ活動をする企業であり、それによって将来の成長性をより強く感じさせてくれる企業が、高く評価される傾向があります。IT分野におけるソフトバンクなどがその例にあたりますが、総合電機三社の中で最近の状況下においては、東芝がそれに最も近いと言えるでしょう。
 米ウェスティングハウス買収(2006年10月)による原子力発電事業の拡大や、フラッシュメモリ事業への注力によって、「原発と半導体」という「選択と集中」の看板を打ち出しています。HD-DVD事業からの撤退も、それを報道する資料の中には、むしろ不採算事業からの撤退として高く評価する部分を感じさせるものがありました。
 一方で日立は、日本最大級の企業グループの一角であり、なお事業規模の拡大を続けている、電機業界の最大手です。
 これらに対して、同社は目立ちづらいポジションにあります。今後の戦略説明にしても、「バランス経営」を標榜する同社のソレは、他二社に比べて成長戦略としてのアピール度は弱いと感じられます。

 同社に限らず、三菱グループの企業は、そうした傾向があるように感じます。旧三菱銀行がバブル期に融資拡大に走らなかった(あくまでも結果として、ですが)のが、現在に到るまで銀行業界の中でも信用面で高く評価されている一因でしょう。また三菱自動車が作る自動車は、他社製品に比べて重く、硬いモノが多いという特徴があります。全てにおいて地味なんですョね。

 ぶっちゃけ私は株屋の眷属出身者として、同社の経営戦略に面白みを感じられません。自分で投資家として同社の株を買おうとも思いません。ただ、Going Concernとしての企業を考えた場合、同社のような有り様もあっていいかな、とは思います。買収防衛策としての意味合いから、もうちょっとIRやPRで株価対策を講じた方がいいかな、とも思いますが。
 まぁ、そういう意味をこめて、今回のタイトルを付けてみたのですが…
 同姓のコピーライターさんの仕事と違って、「キレ」が無くてサーセンw

2008年5月1日木曜日

前回のおまけ+α

 ちょっと間が空きましたが、前回のお話では、嗜好性と規模の経済という二つの方向性が現れる業界を取り上げました。そこで、かつて分析した中で軽アルコール飲料業界もそうだったように記憶していると書きました。
 そのまま放り出すのもナンなので、直近の状況を調べてみました。


 いやぁ、見事に「規模の経済」が働く業界になってますねぇ。
 この業界では、ベルギーInterBrew社とブラジルAmBev社の合併によるImBev社誕生(2004年)やメルシャンのキリンホールディングス傘下入り(2007年)など、国内外とも大手同士による再編が進みました。その結果、上場企業の中には特化型の企業が無く、規模の経済が典型的に現れる状況になってしまったというコトでしょう。
 まぁ、これが国際競争というものですね。
 もちろん、地酒を造る酒屋やワイナリーは今後も特色ある企業として残っていくことでしょうが、そうした中小企業が大手に買収されること(サッポロによるチリViña Undurraga社買収~2005年とか、ウイスキーですけどサントリーによるBowmore買収~1994年とか)も続くでしょう。

 もう一つこのグラフを見て気が付くのは、傾向線から大きく上方に乖離する、即ち強いブランド力を持つ企業も無い、ということです。私のようなエロおやぢに対してバドガールの訴求力は強いワケですが、全体としてのBudweiser(Anheuser-Busch社)のブランド力は然程でもないことが見てとれます。

 さて、こうした形の再編が進んだ軽アルコール飲料業界と、未だそれが進んでいない化粧品・トイレタリー業界では何が違うかというと…商品の持つ嗜好性の強さからくる、消費者のロイヤリティの強さが最も強く影響しているんだろうと思います。
 喉が渇いてビールが飲みたくなったトキに、「お気に入りじゃなきゃイヤ」というヒトは、あまりいないでしょう。スーパードライを普段飲んでいるヒトでも、一番絞りとモルツしか置いてなければ、どっちか飲んじゃいますよね?
 そうした代替可能性の高さが、上記のような、規模の経済が促進される一方で特別なブランドは不在という状況に繋がっているのでしょう。
 でも、日頃TSUBAKIを使っているヒトがアジエンスに替えるには、結構思い切りが要ると思います。但し、それじゃあ化粧品・トイレタリー業界が、軽アルコール飲料業界に近い形の再編が進まないかというと、そうは言い切れません。
 ファッション業界では、複数の、方向性が必ずしも近いものばかりではないブランド群を単一企業グループが取り込む形で、ここ数年で急激に再編が進んでいます。ファッション企業の中には、酒類メーカーと合併したトコ(LVMH)までありますね。
 化粧品・トイレタリー業界でも、同様の再編が進む可能性は否定できません。むしろ、欧米での景気後退と発展途上国での普及促進のために求められる単位コストの削減が、再編を後押しする可能性もあろうかと思います。ファッション企業による、業界の壁を越えての買収も、あるかもしれません。
 さて、どこがどこを飲み込むでしょうか…


 ところで、道路特定財源のための暫定税率制度の再適用が可決されちゃいましたね。
 ドライバーとしてはツラいトコロです。ゆうべは私も行列に並んで、満タンにしてきました。私のクルマは今月車検なので、重量税の減免を期待してたのですが、ソッチの方はもっと残念です。
 で、今回、福田首相他の方々がソレを正当化するに際して、ガソリン税の環境税としての意味合いを主張していたのは、私ゃ気に入りません。
 スタグフレーション環境下で生活コスト全般を切り詰めているのに、レジャーコストを拡大してガソリン消費を増やすワケがないでしょう。
 環境税としての性質を持たせるなら、景気に連動して税率を上下させるようにすればいいと思うんですよ。そうすれば、景気拡大期にもガソリン消費の増加は抑えられるでしょう。
 ガソリン税に限らず、景気連動型の税制はあっていいんではないでしょうかね。
 全部税率(または税額)固定にしちゃうから、好況期の予算が既得権益化して、不況期に必要以上に国民経済を圧迫することになるんじゃないでしょうか。
 好況時により大きな税収増が見込める形にしておけば、官僚や政治家の方々も、成長路線を重視する方にシフトしてくれると思うんですけどねぇ。ついでに、好況が行き過ぎてバブルになるのを抑える効果も期待できると思うんですけど…
 如何ですか?