2012年1月28日土曜日

会社の見方 社会の見方

PowerPointのアニメーションをAdobe Flash形式に変換するソフトの存在を、最近になって知りました。
ものは試しで、昨年(2011年)末にとある勉強会で講師を務めさせて頂いたトキのパワポ資料を変換してみました。

オブジェクト内の縦書きが反映されないとか、一部に問題はありますが、概ねイイじゃないですか。パワポのアニメをここまで忠実に再現しているのは、初めて見たかも。ソフトメーカーのロゴが付いてしまうのは、タダで使わせて頂く以上、仕方ありませんね。

さて、「会社の見方 社会の見方」なんぞという偉げなタイトルを付けてみた講義の中では、

  1. 評価者としての観点≒分析の目的を明確化するべし

  2. 分析の基本はブレイク・ダウン

  3. 分析対象が関係する他者との関係をネットワークと捉えて相互関係を考えるべし


の3つの視点でお話させて頂きました。

「何も知らないヒト」のレベルを対象に考えて作ってみたのですが、最後の方はちょっと難しすぎたかなぁとか、時間運営がうまく行かなかったなぁとか、反省する点は多々あるのですが(汗
久しぶりに人前で話したのは、楽しかったです。

証券アナリストとしては未だ駆け出しのワタシですが、レベルを上げて、いつかはプロとしてお話できるようになりたいと思っております。

2009年11月17日火曜日

デフレ論争雑感

先々週末~先週半ばにかけて(11/7~10くらい)、リフレ政策に関する論争が、ネット上で華やかに行われました。
経緯としては、勝間和代女史が国家戦略室で「デフレを止めましょう」と提言したことに対して、池田信夫氏をはじめとする論客が、勝間女史の依って立つ“貨幣数量理論”を批判するという展開でした。
ロジックとしては批判派の方が理路整然としていますし、グラフも合わせて説明されると、さすがと唸らされてしまいます。

ただ、グラフの出元が、書き手の優秀さをイヤという程感じさせる一方で、勝ち組お金持ちサンとして「貧乏人なんぞ切り捨てちまえ」という論調を展開するトコロに、負け組貧乏人であるワタシは orz となったというトコロもあるでしょうが…
ワタクシ的に、ちょっと釈然としないものが残ったわけです。で、ちょっと角度を変えて考えてみました。


日銀による貨幣供給(=マネタリーベース)が明らかに増加傾向を見せ始めたのは、1999年末ですね。
それが2000年のITバブル崩壊を期に加速したのですが、これは、貨幣数量理論に基づく景気刺激策であったものと考えられます。
しかし結果はご存知の通り、2003年以降の世界的景気拡大による外需増加まで、日本経済が好転することはなかったわけです。
これを以って、リフレ政策批判派はゼロ金利環境下では金融政策は意味をを持たないとしているところであって、それは説得力があると思います。
2003年までの状況は、流動性トラップが生じたことにより、貨幣供給が景気刺激にならなかったものであると思われます。

2003年以降に現れた変化として、投資収益(証券投資+金融派生商品投資)の振幅が拡大傾向を明らかにした、すなわち対外金融商品投資が拡大したことが挙げられます。
日本で調達した資金を海外へ投資する、いわゆる“円キャリートレード”の拡大ですね。
これによって円の国際価値は下落を続け、対ドルベースでも円安に転じた2005年以降、それが加速すると共に対外金融商品投資がさらに増加するという局面を迎えました。
つまり2003年以降は、増加した貨幣供給の効果が、国内における消費よりも対外投資が選好されることによって発散してしまった部分があるのではないかと思います。

2006年半ばには、日銀が貨幣供給を絞ると共に、ゼロ金利を解除しました
このタイミングでそうした施策を行った一つの狙いとして、円キャリートレードの縮小によって金融政策の有効性を取り戻そうとする狙いがあったのではないかと推測されます。
しかし、対外投資の拡大傾向は続きました。
米国において不動産バブルの変調が明らかになった2007年半ばになってようやく、為替が反転すると同時に対外投資の拡大は止まり、2008年のリーマン・ショック以降、縮小することになりました。

こうして“ミセス・ワタナベ”が投資活動を終息させた2008年末から2009年第3四半期までは、金融政策=貨幣供給が高い効果を挙げ得た、千載一遇のチャンスであったのではないかと、ワタシは思います。
ただしその効果は、勝間女史がおっしゃるような、デフレ脱却効果ではありません。消費者行動が生活防衛にシフトしている現在、流動性供給は、やはり流動性トラップによって効果を失うことでしょう。期限付き消費券との組み合わせなら、多少は効果が出るかな?
それよりも期待できるのは、為替に対する効果です。
2008年以降、国際的にも対ドルベースでも上昇傾向を続ける円を、流動性供給=量的緩和によって円安方向に誘導してやれば、輸出競争力が強化されます。

昨日(2009年11月16日)発表された2009年第3四半期(7-9月期)GDP速報では、前年同期比1.2%と大きな伸び、そのうち外需の寄与度は0.4%でした。
その前の第2四半期(4-6月期)には全体で+0.7%のうち、外需寄与度が1.5%でした。
この数字は、この時期に量的緩和策をとっていれば、もっと大きいものに出来たのではないかと思います。
英国が量的緩和で対ユーロベースのポンド安を演出し、大陸欧州向け輸出を拡大しているのと同様の効果が期待できたのではないでしょうか。

では、勝間女史のおっしゃる通り、これからやったらどうなるか?
ノルウェーやオーストラリアといった資源国が金利上昇に転じ、欧米諸国も“出口戦略”を探る状況です。
こうした状況下で流動性が供給されたら…
再度、“ミセス・ワタナベ”が活動を開始することで、対外投資に発散してしまうのではないでしょうか。
正直、時既に遅し、だと思います。

経済にとってデフレがよろしくないということに、異論はありません。
ただ、それに対する処方箋の“1番ピン”は、やはり雇用対策だと思うんですよねェ。

2008年10月31日金曜日

SIerクライシス?

 ここまでいくつかの業種を扱ってきましたが、実は、いずれも私がIPOアナリストとして調査・評価した対象の中で中心であった業種ではありません。私の担当したコア業種は、一般に「IT分野」として捉えられる中で、ソフトウェアやハードウェア等、何かを「作る」企業群です。
 今回はその中で、コンピュータシステムを作る企業である、システムインテグレータ(SIer)を取り上げます。

 SIerの仕事は、企業の中の事務処理を行ったり、様々な機器を制御したりするためのコンピュータシステム(以下「システム」)を提供するコトです。システムは、ハードウェア(以下「ハード」)とソレを統合するネットワークに、ソフトウェア(以下「ソフト」)を加えて構成されます。SIerはハードとソフトをコミにして顧客に提供するのですが、ハードはハードメーカーが作るモノですから、SIer自身が作るのは、主にソフトです。

 企業が業務に使うソフトは、複数の段階を経て作られます。大まかに、

  1. システム化される範囲を明確化する~要件定義

  2. システムを構成するソフト群の明確化や、ソフト内部の処理手順を明確化する~設計

  3. 実際にプログラムを組む~開発


という三段階に分けて捉えるのが、代表的な考え方です。手順として先に来る方を上流工程、後に来る方を下流工程と呼びます。
 一つの流れではありますが、その前段階にある事業戦略やら業務フローと設計・開発の間には文化的断裂があります。ナニをしたいかという戦略とドウするかという設計・開発の違いは、文科系的な考え方と理系的技術論の相違と言えるでしょう。全社的情報システムパッケージ(ERP)を早期に導入した某電機メーカーで導入プロジェクトを担当した方に伺ったお話では、前者をサポートする業務コンサルタントと後者を担当するITコンサルタントの間の調整に相当苦労なさったそうです。

 さて、事業の一連の流れが段階的構造を示すというコトは、企業間分業も成り立つというコトです。SI業界においてのソレは、ゼネコンと同様のカタチを見せます。顧客からSI案件を受託する企業が上流工程を行い、下流工程の業務を細分化して下請け企業に委託しています。SIerの成長モデルの一つとして、下流工程専業として下請けで起業した後、徐々に上流工程に事業を拡大して元請けになるというモノがあります。

 もう一つの、というか元請けSIerの成長モデルとしては、業務知識の深化と多業種対応が挙げられます。
 システム導入のあり方の特徴として、欧米でパッケージシステムが広く使われているコトに対して、日本では個別企業に対応したカスタムメイドのシステムが構築されている点が挙げられます。
 ソコで、そもそも企業におけるコンピュータシステムとはなんぞや?というと、色んな考え方があるワケですが、「ニンゲンの行う業務をハード/ネットワークの中にフローとして再構成したもの」つーのも、その一つです(ワタシが勝手に言ってるダケですけどネw)。で、以前のエントリで述べたように、日本において企業は事業のヤり方(How)で差別化しているコトが多いワケです。同じ業種に属する、同じような企業でも、業務フローが微妙に違ったりします。その分、求められるシステムのカタチも違って来ます。おまけに、ユーザー企業の中の人は、必ずしもシステムに関する知識を持っているワケぢゃない。従って、そうした企業のシステム化を受託する日本のSIerに対しては、より深い業務知識が求められます。
 その中で、最初は顧客に言われた通りのシステムしか作れなかったSIerが、業務知識を深化させるコトで提案型のシステム開発受託までこなせるようになるのが、成長モデルの一つです。更に、それを複数の業界に対して出来るようになれば、SIerとして上位の企業と言えるでしょう。

 こうした進化を遂げたSIer大手なら、個々の企業に大差は無いかというと、そういうワケでもありません。
 SIerの伝統的な分類方法に、ハードメーカー傘下のメーカー系、大手企業の情報システム部門を母体とするユーザー系、それらに含まれない独立系の三種に分類するモノがあります。メーカー系とユーザー系では、出身母体の違いから、得意とする分野に差が生じます。メーカー系はハードの使いこなし方をはじめとするシステム技術、ユーザー系は業務へのシステム適用のノウハウということになります。メーカー系SIerの代表的なものは、日立システムアンドサービスや富士通ビジネスシステム、東芝情報システム等です。一方、野村総合研究所(NRI)やNTTデータ、新日鉄ソリューションズ等が、ユーザー系SIerに分類されます。NRIの得意分野は金融ですし、NTTデータは官公庁向けの案件を得意とします。

 SIerというとふつ~のヒトには「技術の会社」と思われるコトが多いのですが、ユーザー系SIerの中の人は、垂直分業の中で要件定義を主な役割とするコトもあって、必ずしもソレを重視しません。ソの例として、私自身の経験を述べましょう。
 私がSEの仕事をしていたのは10年以上前のコトになるのですが、その最後に近い1996年から1997年にかけて、「オブジェクト指向」と呼ばれる、当時は新しかった考え方を一部に取り入れたシステムを作りました(下のFlashは初めて作ったモノなので、見づらいのはご勘弁をw)。







 オブジェクト指向的な考え方を取り入れたのは、社内ではかなり早い事例になると思うのですが、全然評価されませんでした。その理由として当時のボスから受けた説明は、私が所属部署の子飼いでなかったからというもので、技術なんて人事考課に一切関係なかったワケです ┐(´~`)┌

 SIerの中でも特に、そうしたユーザー系SIerは今後、大きな危機に直面するおそれがあります。市場縮小と付加価値訴求力の減退のおそれに加え、内部管理体制の根本的見直しを迫られています。

 企業の業務にシステムが用いられるようになったのは、1960年代半ば以降です。その後、システムを利用する企業の増加に伴い、SIを主とする情報システム市場は拡大していきました。1990年代初のバブル崩壊後には市場が縮小する局面もありましたが、1995年以降のインターネット利用の普及を背景に、市場は再度、拡大期を迎えました。インターネットが一般化した2001年以降は、市場規模は横這いで推移しています。2006年に統計基準が変わったのでそれ以前と同じ視点で見ることはできませんが、2006年から2007年にかけて市場規模は微減でしたから、全体の傾向は大きく変わってはいないと推測されます。
 ただ、企業数は減少傾向にありますから、1社あたりの売上は拡大しています。大手SIerの業績推移を見てみると、売上・利益共に拡大している企業もあれば、横這いで推移している企業もあります。伸び悩む市場環境下で、個別企業の選別が進んでいるコトが推測されます。
 現在、金融危機を契機とした景況悪化が、世界を襲っています。日本は比較的、その影響が少ないとは言われていますが、先行きの見通しは芳しくありません。これまでの、情報システムの利用普及やインターネットの利用拡大といった、不況下でも情報システム関連市場の拡大をもたらした要件も、現在は見当たりません。市場が縮小過程に入る可能性は高いでしょう。

 足下では、いわゆる「J-SOX法」への対応が、SIerにとって特需要因となっています。しかしこれは、中長期的にはユーザー系SIerにとってマイナス要因になるでしょう。
 2007年9月に施行された金融商品取引法では、上場企業に対して、財務報告に関する内部統制制度の整備と内部統制報告書の提示を義務付けています。今後数年をかけて、そのカタチを模索していくことになるのでしょうが、結局のトコロ、事業の全社的「見える化」を進めるコトが必須です。
 そうなると、ユーザー企業自体がシステム要件を明確化する力が向上することになるでしょう。「面倒くさいコトはSIerに全部お任せ」という態度の美味しいお客様は、もう期待できません。要件定義に重きを置いてきたユーザー系SIerにとっては、付加価値を訴求する力が減退するコトになります。

 んぢゃあ、ユーザー系SIerはどぉすればイイか。
 一つ考えられるテは、業務コンサル機能を取り込むことです。つまり、業務改善とシステム化を組み合わせて提供するビジネスに、ドメインを拡大するコト……なんですが、既に一部ではソういう動きは出ています。例えば2005年4月には、NTTデータがアーンスト&ヤング系のコンサルティング会社であった日本キャップジェミニを買収しました。ただ、この動きはメーカーの方が先行していて、IBMが2002年7月にプライスウォーターハウス・クーパーズ系のPwCコンサルティングを買収しましたし、2004年11月にはNECがアビームコンサルティング(デロイトトウシュトーマツ系)の株式35%を取得しました。
 もう一つは、同業他社との提携で、規模の経済を志向すること。規模の拡大は、顧客基盤の拡充やノウハウの拡大等の効果が見込まれる、SIerの基本的な成長戦略の一つです。これまでも、ユーザー系に限らず、多くのSIerが合併による規模の拡大を繰り返しています。最近では、2008年9月29日に発表された、NTTデータによる日本総研ソリューションズの子会社化(50%株式取得)なんて例がありますね。今後もSIerの再編は続いていくことでしょう。
 またはこれから技術力(ハードの使いこなしに限ったハナシではなく、ソフト開発の効率化とかも)を磨いて差別化を図るのもイイでしょうが、方向性を絞ってヤらないと、メーカー系には追いつけないでしょう。
 あとは、外販をあきらめちゃって親会社の情報システム部門に回帰するテもありますが、売上は下がりますし、その際の大規模リストラが社員のモチベーションを大きく引き下げるコトになりますから、選択しずらいトコですね。

 それ以上に、SIerの売上・費用計上の基準が変わることの影響が大きいと考えられます。
 2009年4月から、SIerの売上及び費用は、工事進行基準で計上されることが原則になります。SIerにおける工事進行基準とは、ソフト開発の進捗度合いに応じて、売上と費用を分散して計上するやり方です。この制度の下でキチんとした会計を実現するには、進捗管理の精度を上げる必要がありますが、そのためには、設計・開発工程の標準化が求められます。ソフト設計・開発の進捗管理には、ガントチャートと呼ばれる表を使うコトが多いのですが、その縦軸の切り分けと各工程における標準工数の見積もりが重要です。

 他業種では、コレを上手くやっているトコロがあります。例えば自動車業界。自動車をディーラーに整備に出す場合、整備工程は高度にメニュー化されてて、大まかな整備内容が決まれば、あっという間に整備期間と費用の見積もりが出ます。自動車の場合は商品自体がモジュール化されてて、不具合のあるトコはモジュールまるごと交換しちゃうという背景はあるんですけどね。
 一方コンピュータシステムは、同じ工程であっても個別の案件毎に工数は大きく異なりますので、自動車と完全に同じコトは出来ません。とはいえ、管理者からプログラマまでが、設計・開発工数の標準化を統一された目標の一つとして仕事してれば、案件数が増えれば増える程、精度の高い工数管理が出来るハズです。そういうコトをやらんで、管理者がSEとかプログラマ、あるいは下請け会社に仕事振っておしまい、なトコは対応できないでしょ~ね。私が当たっちゃったボスのような、「オマエに全部任せた(でも評価しないょ)」な中間管理職の方ばっかりなトコロは……放っておくと、大変なコトになりますょ(北野武サン風にw)
 それから、工数管理を高度化する上では、下請けとの関係強化も重要な課題ですネ。M&Aで取り込んぢゃう、つ~のも一つのテでしょう。

 正直なハナシ、工事進行基準は、なぁなぁでドンブリ勘定な日本のSI業界には馴染まないと思います。そもそもカスタムメイドのシステムなんて、完成して初めて役に立つモノな上、開発中の仕様変更もよくありますしねぇ。この導入を決めたヒトは、SI業界の内情をよく知らないか、逆に詳しく知っていてソレを根本的に変えたいと思ったか、どちらかではないでしょうか。
 でもまぁ、決まっちゃったモンはしょうがない。SIerとしては頑張って対応するっきゃありませんナ。

 このようにSIerは、市場が縮小に向かう中で、付加価値訴求力の強化と内部管理の精度向上に努めなければならないという、難しい局面にあります。
 コレへの対応に成功するかどうかが、5年後、10年後における市場での優劣を決める、大きな要因になるだろうと思います。

2008年9月24日水曜日

ブラックサンデーを好機に

 去る9/14(日)に米連邦破産法第11条(Chapter11)の適用を申請するカタチで、米証券大手のリーマン・ブラザーズが経営破綻に到ったコトを機に、世界各地の株式市場は大幅に下落しました。これを一部で「ブラックサンデー」と呼んでいます。サブプライム問題やCDS(倒産補償証券)問題による金融不安に加え、米金融当局の施策に対する不安~ソレより以前の3月に資金供与で救済されたベア・スターンズが救済されてリーマンが救済されないコトの不整合に対するモノだと思いますが~が、ソの大きな一因と言えるでしょう。ヒトによっては、「証券最大手のゴールドマン・サックスですら、安全とは言えない」と仰ってましたネ。
 続いて経営危機が表面化した保険大手のAIGに対する公的資金注入による救済や、更に発表された不良資産買取機関の創設・MMF資金保護・金融株の空売り禁止や各国中央銀行を通じたドル資金供与といった安定化策によって、市場のショックはとりあえず一段落つき、安心感が広まっているようです。とはいえ、不安感が拭いきれたワケではありません。今回生き延びたAIGだって、FRBからの融資を返済せねばならないワケで、危機を完全に脱してはいないのです。

 ワタクシ個人的にも、今回の件では大きくマイナスの影響を受けます。株式資産が目減りしたのは、長期保有で考えているのでまだイイのですが、再就職活動がより一層、厳しいモノになりそうです。
 少し前にメディア系アナリスト会社の採用で若モノとの競合に負けてしまってがっくりキているのですが、そうした面白そうな案件は更に細りそうです。
 金融機関本体の採用は、なおさら狭き門になるでしょう。ココにリーマンからあぶれたヒト達が入ってくるワケで… orz

 ともあれそうした環境下、日本企業にとってこの9月中間決算やソレを含む通期決算(2009年3月期)は、そうとう厳しいモノになりそうです。
 金融不安から実体経済への影響は避けられず、先進国を中心に景気が減退する中、本業の業績が悪化しつつあります。
 更に今回は、これまで以上に株安が企業に影響を及ぼします。2000年前後には、金融機関を中心とした株式持合いの解消に伴って、企業による株式保有は減少しました。しかしその後の景気回復期には、企業による株式保有が増加しています。2007年度には金額ベースでは減少していますが、その間一貫して、企業は株式を買い越しています。その後もソの傾向は続いています。2008年度入りした4月こそ若干の売り越しでしたが、5月以降は再度、買い越しの状況が続いています。M&Aの増加に伴って「買収防衛策」が話題になるようになったのが、2004年以降のハナシです。企業による株式保有の増加とソレが時期的にリンクしているコトから、買収防衛策の一環としての株式持合いが増えているであろうコトが推測されます。こうして積み上がった保有株式の評価損が、企業業績の足を引っ張るコトになります。

 ブラックサンデーに先立つ6月頃から、日経平均は下げ基調でした。金融不安の中で企業の業績悪化を織り込む動きだったのでしょう。ただ、9/19(金)に9月中間決算予想の大幅下方修正を発表した東芝の株価が、9/22(月)において日経平均を超えるペースで上昇したことから、既にかなりの部分が織り込み済みである可能性は見えてきたと言えるでしょう。

 とはいえ、本格的な市場回復は、売買の主役である外人や個人が買い越しに転じてからというコトになるでしょう。
 そのうち個人は昨年(2007年)以降、売り越しを続け、その分を現預金として積み上げています。また、ネット証券の新規口座の増加が、そのペースを落としつつあるとはいえ、続いています。一部では「証券会社への個人投資家の問合せが増えている」との報道もありました(先週あたりのWBSか報道ステーションだったような…)。個人が買い出動するモチベーションは、高まりつつあるのではないでしょうか。悪材料出尽くしなどで株価に底入れの兆しが見えてくれば、市場に個人の資金が戻る可能性は、充分にあるでしょう。とはいえ、実際に動き出すのは、もうチョっと先になるかな?

 足元の業績悪化が危惧される一方で、世界的な株安が日本企業にチャンスとなる可能性もあります。
 1980年代末のバブル崩壊以後、銀行による貸し渋りに対応するため、日本企業は銀行に頼らない経営を志向してきました。借入金を返済しつつ、内部留保を積み上げてきました。特に2000年のITバブル崩壊以後、その傾向は強くなっています。内部留保が積み上がった企業はM&Aのターゲットになりがちなのですが、これに対しては、上記の株式持合いや各種の買収防衛策を採用して対応しました。この間、人件費削減等による収益力向上の一方で役員報酬を大幅増額する企業もあって、ガバナンス的にどぉよ?と思うトコロもありますが、結果として、企業の経営基盤はかなり安定化したと言えるでしょう。
 この積み上がった内部留保の有効利用が、次のステージにおける日本企業の課題となるでしょう。割安となった海外企業を対象としたM&Aは、有効な成長策となりえるでしょう。既に金融機関は、そうした動きに出ています。
 日本企業には、今回の危機をむしろ好機として捉え、成長に向けた戦略を考えて欲しいと思います。

2008年9月15日月曜日

ゲームの、理論。

 前々回のエントリで、若者に経営戦略論を教えていたトキの小ネタに触れましたが、ツイでですので、今回は本ネタを紹介します。対象となる企業は、スクウェア・エニックス(以下「同社」)です。

 同社のビジネスのカテゴリーは、家庭用ゲーム専用機向けゲーム、いわゆる「コンシューマゲーム」用ソフトウェアの分野です。
 産業としてのゲームは大きく、ゲームセンター向けの業務用、いわゆる「アーケードゲーム」と家庭用に分かれます。家庭用ゲームソフトはPC向けとゲーム専用機向けがあるのですが、日本では作品数・販売額共に後者が圧倒的に多く、「ゲームソフト」と言った場合、その多くがコンシューマゲーム用ソフトのコトを指します。

 同社は、旧スクウェアと旧エニックスの合併によって成立しました。スクウェアとエニックスの両社は、コンシューマゲームソフトの中でも、ロールプレイングゲーム(RPG)分野で、それぞれ「ファイナルファンタジー(FF)」シリーズと「ドラゴンクエスト(DQ)」シリーズという、他の類似商品を大きく凌ぐ看板商品を持つ、トップベンダーでした。任天堂のファミリーコンピュータから始まった家庭用ゲーム専用機の普及に伴い、両社は事業規模を拡大させてきました。

 状況が変わったのは、1990年代終盤です。
 1997年をピークに、拡大を続けてきた国内のコンシューマゲームソフト市場が、縮小に転じました。インターネットや携帯電話の普及に伴う余暇時間のうちゲームに割く割合の減少、少子化の影響、シリーズ長期化に伴う陳腐化等々、それには多くの要因が影響していたと考えられます。
 更に、両社自身の経営戦略の失敗が重なりました。
 スクウェアはCGアニメ映画「FINAL FANTASY」(2001年公開)に多大な予算(制作費約170億円)を割きましたが、興行成績は惨憺たる結果(日米合計約50億円)に終わり、大きな損失を蒙る結果となりました。損失自体はソニーコンピュータエンターテインメント(SCE)による増資でカバーしたのですが、そのコトはプラットフォーム選択の幅を狭める、戦略上の制限要因と言えるでしょう。プレイステーションの供給元であるSCEが大株主なのに、任天堂やセガ(当時)のゲーム機向けソフトは、出しづらいですょネ。スクウェアとしては、その制限を外したいモチベーションがあったと考えられます。
 また、それに先立つ1999~2000年には、商品戦略の問題から、有力クリエータの退社が相次ぎました。
 更に、2002年3月期には、続く市場縮小による販売量減少を受けて、販売子会社であったデジキューブの株式の一部を売却して持分法適用会社としたため、売上計上が減少しました。その後デジキューブは、2003年11月に破産してしまいました。
 一方エニックスは、海外販売を軌道に乗せることができない状態が続いていました。国内とは異なり、海外のゲーム市場は欧米を中心に成長を続けていたのですが、その恩恵を受けるコトができずにいました。
 また、主力商品であるDQシリーズの新作リリースが2~3年に1回であった上、DQに続く看板タイトルを生み出せなかったことから、業績が不安定でした。

 更に国内市場の縮小が進む環境下、2003年4月1日付けで両社は合併し、同社が成立することになりました(2002年11月26日発表)。
 カテゴリートップクラスの企業間におけるM&Aは、伸びていた市場が縮小に転じたトキの典型的な対応策です。守りのM&Aと言ってよいでしょう。最近でも、携帯電話販売の国内1位と2位(三井物産系のテレパークと三菱商事・住友商事系のエムエス・コミュニケーションズ)が2008年10月1日付けの合併を予定していますネ。
 スクウェアとエニックスはいずれも、コンシューマゲーム用RPGではダントツのトップクラス商品を持つ、最大の競合相手であったワケです。その両社の合併は、競争の緩和をもたらします。競合シリーズの商品リリース時期をずらすコトなどで、競争による販売機会の逸失を排除できます。合併以前は、FFシリーズとDQシリーズの発売が重なり、一方が売上を伸ばせなかったコトがありましたが、合併でそうした状況は避けられます。合併後の同社は、コンシューマゲーム用RPG分野ではオンリー・ワンと言ってよい立場になりました。

 更に2005年9月、同社はタイトーをTOBで買収し、子会社化しました(2005/8/22 TOB発表)。
 タイトーは、アーケードゲーム機の開発・製造・販売と、ゲームセンター運営が主たる業務です。同社とタイトーとは事業ドメインが異なる企業であり、多角化のカタチを取った、攻めのM&Aと言えるでしょう。
 もちろんトータルの事業規模を大きくするためだけではなく、シナジーも期待されていたことでしょう。2006年3月期分のアニュアル・レポートでは「多様なコンテンツ・サービスの提供手段を確保」したとの記載があるコトから、コンテンツの出口の多様化を志向したものであったと思われます。具体的には、同社製ソフトのゲームセンター版提供とか、同社が保有する漫画・アニメコンテンツのキャラクターを使ったアーケードゲームの開発とかいったトコロでしょうか。

 同社による買収以前、タイトーの筆頭株主は、電子部品メーカーの京セラでした。
 京セラにとってタイトーは、自社製電子部品のファーストユーザーとしての意味合いがあったと思われます。電機業界の総合化は、SETメーカーが系列下にPARTSメーカーを持つ例が多かったのですが、これはその逆に、PARTSメーカーがSETメーカーを傘下に置いた例と言えるでしょう。しかし、電機業界における総合化の意味が薄れてきました。この例では、アーケードゲームの変遷が、京セラがタイトーを保有する意味を低減させました。かつてのゲームでは、新機種導入時に機器を全て入れ替えており、多数の電子部品がその度に利用されました。その後、モジュール化が進んで新機種導入時に交換される電子部品の数が減り、更にアーケードゲーム機の中で、クレーンゲーム等の電子部品点数が少ないモノが増えてきました。京セラがタイトーを売るコトを決意したのは、こうした変化が背景にあったと考えられます。

 売られる側のタイトーも、危機的状況にありました。アーケードゲームは、グラフィック精度向上やマップ拡大等の既存ユーザーを向いた進化を続けてきたコンシューマゲームと異なり、シューティング→アクション→対戦格闘→3D対戦格闘→音ゲー→クレーンゲーム・メダルゲーム→カードゲームと、新機軸の導入を続けることで継続的に新規顧客を取り込んできました。その結果、ゲームセンター市場は安定的に推移してきました。タイトーはその中で大手の一角として一定の存在感を示していましたが、「電車でGO!」(1997年)以降のヒット作を生み出すコトができない上、カードゲームへの主力機器移行に出遅れました。売上増は維持していたものの利益が急減し、大きな変化をもたらす、なにがしかの対策が求められる状況にありました。

 同社によるタイトー買収は、買う側・売る側・売られる対象の三者にとって動機があった「イイM&A」の代表的事例として、私は評価しています(あくまでも買収時点において、ですけどネ)。

 こうして短期間の間に同社は、守りのM&Aと攻めのM&Aの両方を行いました。投資銀行的には、成長を目指した攻めのM&Aを高く評価したいのが心情なのですが(次のビジネス=ファイナンスに繋がりますしw)、市場が必ずしもそう見てくれるとは限りません。
 スクウェアとエニックスの合併時には、両社の株価が上昇しました。
 一方、同社がタイトー買収を発表した際には、同社の株価が一時的に上昇したものの、すぐ戻してしまいましたし、タイトー株はTOB価格(1株18万1,100円)に合わせただけでした。後者については、投資家の注目から外れていて、取引自体が細っていたという要因もありますけどネ。
 こうした状況から、市場は、競争緩和による効果は評価しても、多角化の効果が短期的に出る期待はできないと判断したと考えられます。

 結果としては、同社はタイトーというリソースを未だ充分活用できないままです。投資家のみなさん、大正解w 
 カラオケ事業からの撤退や、不採算店舗の閉鎖といったリストラ策で、2008年3月期にはタイトーを引き継いだAM等事業を黒字化しましたが、シナジーを出すには到っていません。
 正直、両社のリソース共用の面では、もうチョっとヤリようはあるんでないの?とか思ったりします。例えば、タクティクスオウガのカードゲーム版とか、同社の漫画・アニメのキャラクターを使ったFPSとか、逆にダライアスあたりをお題にとった漫画・アニメとか、いくらでもアイディアは出るでしょうに。また、直近では若年層のゲームセンター離れが進み、新たな客寄せの手段が求められている状況下、コンシューマゲームや携帯ゲームと連携させた大型筐体やカードゲーム・コインゲームなど、同社が打てるテはあるでしょう。
 まぁ、同社としては、アーケードのノウハウを時間をかけて熟成させる方向のようですし、長い目で見るべきでしょうネ。

 さてその後、2003年を底に国内ゲームソフト市場は下げ止まり、徐々に回復傾向を示すようになりました。2006年には、任天堂DS(2005年12月発売)をはじめとする新ハードの普及が始まり、市場規模が拡大しました。カテゴリー・オンリー・ワンとなった同社にとっては、非常に快適な環境となったワケです。一方で既存シリーズの移植に頼る商品展開で、中長期的な成長エンジンが見当たらない状況です。そうなると、近い分野に手を出して成長を図るというモチベーションが生じるのは、自然なコトでしょう。
 そこで直近の競合図を見ると……テクモ、コーエー、ハドソンあたりが、美味しい買収対象に見えてきませんか?
 実際、同社はテクモに対して手を出した(2008年8月28日 TOB提案)のですが、テクモはコーエーと手を結ぶコトで、コレをはねのけてしまいました(同年9月5日 同社提案撤回)。実は今回のエントリで「テクモかコーエーに手ェ出すんぢゃないの?」と書こうと思ってたんですが、先を越されてしまいまスた。それどころか決着までトットと着いてしまったワケで…お笑いですナ orz
 一方ハドソンはコナミの子会社であり、手を出しづらい対象です。
 現在のところ、テクモやコーエー以上に合併効果が期待できる、買い易い対象はなかなか見当たらず、M&A戦略は手詰まりと言わざるを得ないでしょう。資本提携・事業提携への機動的対応を目的として持株会社化を予定していますが(2008年10月1日実施予定)、具体的案件がすぐに出てくるかは、チョっと疑問です。ミドルウェアの会社を買うとか、ネットゲームインフラの会社に手を出すとか、受託開発会社との提携を深めるとか、選択肢はいくつか考えられますが、成長に向けて即効性のあるモノは、現時点では考えられません。
 当面は、FF/DQ両シリーズに続く目玉商品の模索や、漫画・アニメコンテンツの世界展開など、即効性は求められないケド真っ当な戦略を継続するコトで成長を図ることになるだろうと思います。

2008年8月31日日曜日

もうチョッと、付加価値連鎖。 +α

 前回は2種類の製造業における企業間バリューチェーンについて述べましたが、今回はもっと単純なバリューチェーンについて、少し語ってみたいと思います。
 ソの対象は、流通業です。商品の場所の移動が繰り返される毎に、付加価値=マージンが乗っていくワケで、製造業の垂直分業におけるソレより単純ですょネ。

 日本における流通の特徴は、その過程の複雑さです。生産者から消費者に届くまで、複数の中間事業者を通ります。代表的なモノが、生鮮食料品等の卸市場システムです。
 これに対して、欧米の流通は単純です。生産者と小売が直結しています。その間を、仲介業者(Agent)が仲介する形態が一般的です。
 んぢゃあ、どっちがイイか、つーても一概に結論付けられるモノではありません。単純に考えると、中間マージンが無い分、消費者にとっても小売にとっても生産者にとっても、欧米型流通の方が良さげに見えるのですが……

 消費者にとっては、絶対的な価格の安い方がイイというのはもちろんなのですが、それ以上に、急激な価格変動があると困る、つートコロがあります。給与所得には硬直性がありマスから。
 で、急激な価格変動が生じると、石油ショックのトキのトイレットペーパー獲得合戦の様なコトになってしまいます。直近のような、急激な燃料・原料価格高騰があった場合、欧米型流通システムだと、その影響が小売価格に直結します。
 これに対して、日本型流通システムにおいては、各流通主体がマージンを削るカタチで、出荷価格の変動を抑えようとします。その結果、消費者価格の変動が、相当抑えられます。テレビのニュースで、日本にいる外国人が「母国ではもっと価格上昇が激しい」つーてるのを見たヒトも多いでしょう。 試しに消費者物価指数の日米比較をしてみると……昨年(2007年)後半来の物価上昇局面において、確かにアメリカの方が日本より大きく物価上昇している月が多いですネ。

 それ以上に卸システムが機能するのが、流通業自体にとって、です。かつての流通システムは、図の例(農産品)で言えば、零細農家及び共同出荷団体としての地域の農協と小規模小売店(街の八百屋サンですネ)を繋ぐモノでした。そうした状況下で流通を合理化するためには、卸市場システム(卸市場において卸業者を介して商品が流通する仕組み)が有効でした。商品取引が集中するコトで、単位あたり流通コストは下がりますし、価格形成は公正化されますからネ。
 また、同一商品の在庫が流通過程の各企業に分散されるコトによるメリットもあります。例えば小売店では、同業同士で商品の融通が行われるコトもありますし、特定商品を複数の卸から調達するコトもあります。流通在庫というバッファが、品余り時の吸収余力にも、品不足時の供給元にもなっていると言えます。多層的な卸システムによって、個別の販売主体における在庫の極小化が為されているという考え方も出来るでしょう。

 もちろん、デメリットもあります。最大のモノは、上記の通り、マージンを取る中間事業者の数の多さによって、消費者にとって絶対的な価格水準が上がってしまうことですが、ソレだけでは無いと、私は思います。
 昨年(2007年)を通じて、食品偽装問題が世間を賑せました。その主体は、製造小売だったり外食だったり様々でしたが、加工卸業のソレが、最も数多く報じられたように感じます。
 ソの最大の原因は、大手スーパーなどの納品先からの価格引下げ要求に対応しつつ利益を確保したかったという動機だろうと思いますが、最終消費者のカオが見えない状況だったコトが、ソレに歯止めがかからなかった理由の一つではないかと思っています。
 スーパー等の小売店で起きた偽装については、逆に生産者のカオが見えない(=ドコから来たモンだか分かりづらい)状況から、売っているモノに対して誇りが持てないコトが、その原因の一つではないかと思います。

 そうした日本の流通システムに、変化が生じています。
 小売業の中心が、イオンやイトーヨーカドー等の、大規模小売店になりました。一方で、出荷団体である農協や漁協の合併が進みつつあります。この変化は、卸市場システムにおける、取引集中の意味を低減させます。
 そうした状況を背景に、卸市場を通さない、市場外取引が増えています(市場取引率が低下しています)。燃料・原料価格の高騰を背景とした中間マージンの排除のために、その傾向は加速するだろうと思います。
 最近でも、イオンが近畿・関東・東北の漁協との直接取引を始める方針を発表しましたネ。また、小売業者が個別農家と、契約農場のようなカタチで直接契約するケースも増えています。

 こうした変化は、小売店にとっては在庫リスクの増加をもたらします。よりシビアな需要予測が求められるでしょう。
 一方、生産者側の課題は、規模の拡大です。農協や漁協の合併が進んでいるとはいえ、そのセリング・パワーは、大手小売業のバイイング・パワーに対して脆弱と言わざるを得ません。より大規模な合併や、企業化の推進といった施策が重要になってくるでしょう。一次産業の企業化は、食料自給率向上策の一環として取り上げられるコトが多いのですが、バリューチェーン的な考え方からも、これを推進するコトが求められると言えます。


 さて、その食料自給率向上策ですが、最近取り上げられるようになったのは、やはり燃料・原料価格高騰による食料価格高騰がキッカケです。投機資金の流入やバイオエタノールへの穀物利用の拡大が原因として挙げられていますが、ソレらが一段落付いても、状況が大きく変わるかどうかは疑問です。世界人口の増加が続く上、新興国における食の欧米化の影響も無視できなくなってくるおそれがあります。食料自給率の向上は優先度の高い課題だと、私も思います。

 だいぶ前にWBSでUFJの五十嵐サンが「自給率を上げるには、肉と油を摂る量を減らして、その分コメを食べればイイ」とおっしゃっていたのが印象に残っています。ですが、さすがにコレは極論で(翌日、千葉商科大の斉藤センセも「元に戻すのはムリ」とおっしゃってましたがw)。タマには肉をガッツリとイきたいですょネ。
 とはいえ、食の主役はやはり農産物なワケで(酪農部門でも飼料が必要ですし)。まずは農産物の自給率向上が重要ですょネ。
 日本の農業が成り立たないのは、やはり、個別農家による小規模経営で、単位コストが高いコトが一番の原因でしょう。後継者不足も深刻化してきていますネ。
 コメとか小麦とか大豆とか、大量に必要とされる、生活の基盤になる食材については特に、企業の参入を促進して、生産コストを下げつつ、事業の継続性を上げるコトを考えるべきだと思います。
 地方の仕事にアブれたゼネコンを農業企業に転換すれば、雇用拡大(ひいては少子化対策)にもなると思うんですが、どうでしょう。元々、農家の次男以下の方々とかが地方ゼネコンの主戦力だったこともありますし、この転換には、大きなムリは無いだろうと思います。実際、そうした転換の事例も増えているようですし。つーか、建設業における倒産数が増加する状況下、行政府の支援でその転換を加速した方がイイんでないですかね。とりあえずは株式会社形式の農業法人による農地所有の制限緩和(イキナリ解禁は問題ありそうですが)とか農業生産法人の構成要件緩和とか。ツイでにこぅした策は、与党の票田対策にもなるんではないですか?w

 ただ、農業生産を拡大すると、コメ余りの加速が危惧されます。作るだけではなく、売る側にも工夫を講じる必要があります。パンや麺類などへの米粉利用拡大とか、企業参入促進によるコスト削減→価格引下げをヤりつつブランド米の輸出拡大を図るあたりが、まず取り組む課題になるんでしょうが……
 ワタクシ的には、米を原料とした生産物である日本酒の海外進出なんかは、考えて欲しい施策だったりします。まぁ、米の種類が違うワケですがw ただ現在は、税制とか相続とか商圏とか厳しい制限が多く、酒蔵や酒販業者による輸出拡大は、あまり現実的ではありません(宝酒造アメリカ工場製の日本酒がカナダで売られるなんつー、例外的な事例はありますが)。一時的な税収減を招くおそれがあるため、所轄官庁はそうした制限の緩和には積極的に取り組んでくれません。ソコはちょっと考え直して、日本文化の普及促進も絡めてやれば、外国からの観光客誘致にも、ヤりようによっては資本誘致にも繋げるコトができると思うんですが、どうでしょう。輸出増加でトータルの販売量が増えれば、結果として酒税収入も上がるでしょうし。オマケに、酒米は炭水化物含有率が高いそうなので、バイオエタノール原料としても使えないかなぁ、とか思ったりw

 ただ、いずれにしても、中長期的な方針をある程度定めた上で実現化する方向で進めないと、実現できるものではありません。変化の激しい昨今、さすがに「国家百年の計」はムリですが、例えば1年・3年・5年の短期~中期の目標や10年・30年といった長期のガイドラインを定めて、それを実行策にブレイクダウンする形にシフトすることが必要です。そうした目標を一般に公開するようにすれば、国民の理解も得易くなるでしょう。現在叩かれている年金・保険政策のようなコトも、少なくすることができるだろうと思います。
 もちろん、一度設定した目標を金科玉条のように奉るのはよろしくないワケで、それこそ常に見直しを加えていく必要があります。ただ、一般企業はそうした経営計画策定や目標の設定及び見直しをフツ~にやっているワケで(大手企業は公開もしてますし)、優秀な人材が揃っている政府や行政機関が出来ないワケは無いだろうと思うんですけど…
 政府の「骨太の方針」も、最近では数値ベースの明確な目標を提示しなくなってるし、もうちょっと分かり易い形にして欲しいものです。

2008年8月21日木曜日

二つのバリューチェーン

 今回のタイトルの「バリューチェーン(価値連鎖)」とは、経営学の観点から企業活動を捉える概念の一つです。
 そこではまず、企業活動を主活動と支援活動に分けて考えます。支援活動には、全般管理(インフラ)・人的資源管理・技術開発・調達活動が含まれます。主活動を更に、購買→製造→出荷→販売→サービスという一連の過程に分けて考えます。
 この全体がバリューチェーン・モデルなのですが、ここでは「企業活動を、複数の付加価値を生み出す過程が一連の流れを為すものとして捉える」位に考えて下さい。

 バリューチェーン・モデル自体は個別企業の経営モデルであり、主活動を構成する各要素の効率化が、企業の競争力向上に繋がると見るものです。
 しかし、多層的な階層構造をとり、最終ユーザーに到るまで複数の企業を介するような産業(要は垂直分業体制にあるトコですネ)では、企業間取引において、バリューチェーン・モデルに準じた考え方が適用できると、私は考えています。
 ですから私は、かつてIPOアナリストとして取材させて頂いた未上場企業サンのうち、それが適用できるような状況にあると思しき相手には、営業戦略として「直接顧客の一つ先にアプローチしましょう」とか「最終顧客の二つ手前にあたる企業に訴えかけましょう」とか提言するカタチで、バリューチェーン的な考え方をするコトをアドバイスしてきました。
 まぁ、大概の企業サンは直接顧客に対応するのが精一杯で、そうした提言を受け入れられるトコは極めて少なかったようですけどネ。

 さて、過去に数回のエントリを費やして扱ってきた電機業界では、部品(PARTS)→機能部品(DEVICE)→最終製品(SET)という多層構造が成り立っています。
 かつてはSETメーカーとしての総合電機及び総合家電企業による系列化等のカタチで、その多層構造が垂直統合される方向にありました。これに対して、ここ十数年来の動きとして「脱総合化」の動きがあるコトを、以前のエントリで述べました。
 従って電機業界においては、企業間バリューチェーン・モデルが成り立つのではないか、という仮定を立てるコトができます。

 ところで電機業界では、バリューチェーンにおける付加価値の源泉に関して、ある特徴が指摘されています。「スマイルカーブ」と呼ばれるモノです。
 スマイルカーブ自体は、台湾Acer社の創業者サンによって提唱されたもので、PCメーカー単一企業あるいは当該企業グループを想定したものと考えられます。ココでは、主活動を企画→部品調達→製造→販売→サービス(メンテナンス等)に分けて捉えます。そして、縦軸を各過程の付加価値とし、左側が上流、右側が下流という流れに各過程を配したグラフを描く場合、笑ったトキの口のようなカーブになるとされます。
 PCは電機業界の中でも主要な部分となっており、また、脱総合化の過程で行われた標準化によって、他の機器も含めた電機業界全体が、近い性格を持ち合わせているコトが想定できます。もしソレが正しければ、電機業界における企業間バリューチェーン・モデルでスマイルカーブが描けるコトになります。

 そこで、電機業界に関わる企業の付加価値率(ココでは経常利益率)を縦軸とし、横軸に電機業界に属する各企業を、左に上流、右に下流という形に配して、グラフを描いてみます。またココでは、業態の流れを上流から基礎技術→部品→製造→販売としてみました。
 チョっと前の業績を元に、このグラフを作ってみると、まぁ大体、スマイルカーブを描けていると言えるでしょう。実はコレ、若者に経営戦略論を教えるトキの小ネタの一つに使っていましたw
 ちなみに直近(2008年8月20日現在を基準)の業績を使ってグラフを描いて見ると……携帯電話技術提供企業の業績悪化と赤字SETメーカーの「選択と集中」による業績回復で、大分フラット化されてはいますが、一応スマイルカーブに見えなくもないかな。
 とりあえずは、電機業界の企業間バリューチェーン・モデルを否定するコトはできない、位は言ってよさそうです。

 この状況から、最も付加価値の低い製造工程の企業がどうすればソレを上げるコトが出来るか、という課題が見えてきます。
 単純に考えれば、両側に位置する、より付加価値の高い部分を取り込むコトです。具体的には、直販化と部品の内製化ですょネ。
 直販化は、ネット販売のカタチで各メーカーとも取り組んではいますが、主要販売網の一つとはとても言えない状況です。量販店との関係もありますので、積極的に拡大するコトは、かなり難しいでしょう。
 一方、部品の内製化については、最近になって各メーカーが積極的に進めてきたモノがあります。薄型テレビにおける、パネルの内製化がソレです。
 薄型テレビにおけるパネルの内製化については、いくつかの要素で語られています。

  • 需給の問題~完成品(SET)であるテレビの需要の伸びに対して、機能部品(DEVICE)であるパネルの供給が足りない。
  • 価格の問題~テレビSETのうち、パネルDEVICEの価格が占める割合が最大であり、SETの価格決定要因として大きい。
  • 差別化の問題~テレビSETの差別化要素である画質に対して、パネルDEVICEの影響度が大きい。
等といったところですが、バリューチェーンの考え方からも、ソレを説明できるというワケです。

 さて、コレと同じ分析を、産業ピラミッドのもう一つの頂点である、自動車業界でやってみると……スマイルカーブは描けません。
 電機業界との違いとして最も目立つのは、SETメーカーの優位性ですね。
 これは、標準化が進んでいる電機業界と異なり、自動車業界がいわゆる「擦り合せ型」産業であるコトが大きく影響していると思われます。SETメーカーが仕様を決定し、系列下の部品メーカーがソレに沿った部品を作る。スマイルカーブにおける、高付加価値の「企画」機能を取り込んでいるコトが、自動車業界においてSETメーカーの付加価値が高い原因という説明をするコトができます。
 問題は、いつまでその状況を維持できるか、というコトです。

 自動車業界は、二つの大きな課題に直面しています。一つは発展途上国での普及拡大、もう一つはガソリン内燃機関から次世代技術への移行です。
 発展途上国における普及拡大は、先進諸国の景気減退によって、自動車メーカーにとって、より重要になっています。ただ、それを促進するためには、価格を下げて販売量を増やすコトが必要です。そのためには、電機業界が進めたような標準化が、ある程度必要になってきます。
 発展途上国の中でも市場拡大期待が大きいのがインドと中国なワケですが、後者では既に、地場の小規模メーカーが多数乱立している状況です。そうした状況を背景に、自動車部品の国産化という国策も相まって、自動車産業の標準化が進みつつあります。同一規格のエンジンを複数メーカーが生産するようなコトが、始められています。部分的にではありますが、自動車産業の「組立型」化の方向性が見え始めています。そうした変化が進んだ場合、SETメーカーである自動車メーカーの得る付加価値が下がってしまうおそれがあります。
 以前述べたように、自動車には大量生産品としての方向性と嗜好品としての方向性があるワケですが、コスト効果が重視される業務用車両(トラックとか商用バンとか)では前者が重視され、標準化による組立型産業化の方向に向かうのも止むを得ないかな、と私は思います。
 また、次世代技術への移行は、電気自動車に対応するための充電施設や燃料電池車のための水素ステーション等が必要となる、社会インフラ全体に影響を及ぼすモノです。この大掛かりな変化は、自動車メーカーが単独で対応できるものではありません。複数の業界を巻き込んだ統一規格を策定するカタチでの、標準化の推進が必要でしょう。
 こうした状況下で、日本の産業の牽引役の一つである自動車メーカーが、如何にして差別化を図るかという点は、注目に値すると思います。