2008年6月19日木曜日

三洋電機の憂鬱 +α

 前々回は電機セクターのうち、勝ち組企業(三菱電機)を取り上げましたが、今回は負け組企業を取り上げます。

 電機セクターの全ての分野を扱う総合電機以外にも、電機メーカーは数多くあります。重電では富士電機や明電舎、産業分野では空調のダイキンやロボットの安川電機、情報機器ではNECや富士通、半導体の京セラやロームなどなど…
 それらの中では、薄型テレビやデジタルカメラなどデジタル家電のコモディティ化で、民生部門の収益が悪化しています。その影響を蒙った企業としてはパイオニアや日本ビクター等が典型的なのですが、その中で今回は、三洋電機(以下「同社」)にスポットをあててみましょう。

 民生用電機すなわち家電分野で代表的な企業は、白物を含めて幅広い分野をカバーする「総合家電」の松下電器産業と、AV機器を中心とするソニーの二社です。その下に総合家電の同社とシャープが続き、更に下位にAV機器メーカーのパイオニアや日本ビクター、ケンウッド等が位置します。
 下位グループに負け組企業が多いのは、商品の価格低下で、体力の少ないトコが先にバテているというコトでしょう。同社の場合は、理由はソレだけでは無いですけど。

 子会社減損計上の厳格化を理由として同社は、2007年末に過年度分の決算修正を発表しました。修正は単独分だけだという発表でしたので、連結は時系列比較できるだろうと見てみると……コレが出来ないんデスorz
 同社の決算では、2006年3月期分以降、撤退した事業については「非継続事業」として損益通算して開示しています。前期分も同様の処理をするので、二期分の比較をすることは出来るのですが、中期的に掘り下げた分析は出来ません。
 2007年3月期業績については、同期の決算短信と2008年3月の決算短信で、だ~いぶ違ってきています。2008年3月期には携帯電話事業を京セラに売却しました。当該事業は、同社の中ではカナ~り、大きなものであったと推測されます。コンシューマ部門の売上計上減少分がすべてソレだと仮定すると、(1,017,682-684,595)÷2,215,434で、ざっくり15%。こりゃデカい。これだけデカいモノを無視して、時系列分析するワケにはいきません。

 時系列がダメならセグメント別で、と考えてみても、それも出来ません。例えばコア事業として位置づけられるコトになった半導体事業の状況を見ようとすると……コレも分かりません。半導体事業はコンポーネント部門に含まれますが、その内訳は開示されていません。

  • 2006年3月期:「半導体では、新潟県中越地震の影響から新製品開発が遅れ、顧客からの受注が震災前の水準まで戻らなかったことにより、売上は減少した」

  • 2007年3月期:「半導体は、製品の選択と集中などこれまで進めてきた構造改革の結果、売上は減少した」

  • 2008年3月期:「半導体は、市場環境の悪化と価格下落の影響により、売上が減少しました」

と、状況を極めて簡易にw説明しているのですが、これでは何も分かりません。ファクトブックではもう一段細かい区分による開示になっているのですが、それでも「電子デバイス」という区分で、半導体と一般電子部品がまとめて扱われていますし、何より直近期の情報が分かりません。
 まぁ、セグメント情報が細かくないのは、同社に限ったコトではないですけどネ。

 というワケで、現時点で同社を分析しようという試みは、憂鬱な結果になってしまいマス。ファンダメンタルズを見て同社への投資を判断するには、非公開情報が手に入る立場にないと無理ですねぇ。

 さてこの様に、業績情報の開示という面で憂鬱な同社ですが、業績自体も、置かれた環境も、経営組織の問題も、何れ負けず劣らず憂鬱です……というのが今回のお題w
 有価証券報告書や決算短信に記載されている業績の時系列推移で、同基準で評価できるのは売上高と当期純利益だけですが……かつて同社とほぼ同格であったシャープと比べると、その差は歴然です。
 依然としてデジタル家電の急激な価格低下が進む中で、同社が得意とするコンパクトデジカメは特に、アジアメーカーの低価格製品との競争に晒されています。機能や性能での差別化の訴求力は弱く、収益の改善は困難です。コンデンサや洗濯機など、個別プロダクトで優位にある商材はあるのですが散発的で、全体としては商品力の低下が続いています。一方で、新潟地震の影響、経営陣の交替、提携戦略の混乱など、経営は迷走を続けています。電池や洗濯機などで、製造不良の問題も注目を浴びてしまいました。この状態から同社を立て直すのは、一朝一夕には行かないでしょう。

 こうした状況下、同社に手を差し伸べた、いや手を出したのが、ゴールドマンサックス証券(GS)、大和証券SMBC、三井住友銀行の金融三社です。2006年3月に優先株の形で出資したのですが、もちろん慈善事業ではなく、目的はソレによる利益です。

 投資銀行やファンドといった、金融機関による対企業投資案件の仕上げ(エグジット~exit)には色々あるのですが、最終的には保有株式や債権等の金融資産ないしは投資対象企業の保有資産や事業等を売却して、投資資金を回収します。
 投資先が成長企業であれば、放っておいても株式が値上がりし、利益が発生します。しかし問題企業の場合には、何がしかの手を打たないと収益を生みません。代表的なものが、経営者を送り込んだり顧客を紹介したりして事業を建て直すコトで投資対象企業の価値を上げる、いわゆる「再建」です。そうでない場合にはそのママ他者に売却するのですが、買ったものをまるごと売却しても利益が出るコトは考え難いので、売り方に工夫が必要です。そのひとつが事業分割等による切り売りです。「仕入れた魚を売るのに、一尾まるごと売るより切り分けて売った方が高く売れる」なんて言い方をされたりします。

 金融三社が支援に入った時点で、エグジットは切り売りだろうなぁ、と感じました。残るのは、三洋電池(仮称)+三洋オートモーティブ(仮称)+α程度かなぁ…とか。同社の状況は前述の様にgdgdですし、1980年代のアメリカにおけるLBOを用いた企業切り売りの流行を経験しているGSが入るとなれば、そう感じるのも不自然ではないだろうと思います。
 実際、2007年には半導体事業の売却が話題に上りました。結局うまく行かなかったのですが、いまだに不思議に思うのは、最後まで同事業の一括売却にこだわった点です。まぁ確かに、一括売却出来れば、投資した金融三社にとっては、楽に儲かるコトにはなりますが。金融三社の担当者があまり半導体に明るくなかったのか、GS内部に蓄積されているであろう企業分割のノウハウを日本側で利用できなかったのか、原因は分からないですけどね。

 「半導体」と一言で言っても、その範囲は非常に広いのですが、同社の様な電機メーカーが扱うのは、半導体を用いたICやトランジスタなどの電子部品(Parts)や、ソレを組み合わせた機能部品(Device)です。最終製品に使われてナンぼ、なワケです。だからこそ、以前のエントリで述べたように、かつての電機セクターにおいて「総合化」の意味が大きかったのですが、それも今はムカシ。
 で、同社の半導体製品はどぉかというと……三洋半導体のWebページを見ても、「幅広くヤってますねェ」くらいしか分からない。とはいえ、同社の最終製品で主要なモノというと、まず洗濯機とデジカメなワケで、それらを中心とした商品を頂点とした産業ピラミッドを支える製品群が主力であろうと推測されます。
 コレをまとめて売ろうと思うと、その相手は限られます。事業会社であれば、洗濯機=白物家電とデジカメ=デジタル家電の両方をヤってるトコ…総合家電や総合電機です。半導体全般を扱うメーカーも対象になりますね。あるいは、そういうトコロに売却するコトを前提で、ファンドや投資銀行。話題にのぼったのは、ロングリーチやアドバンテッジパートナーズといったファンドでしたね。それがダメとなったら一転、「半導体はコア事業」と言い出した変り身の早さは、見習うべきかもしれませんがw
 ただ、ソコであきらめてしまわずに、もっと細かく分割して、事業会社に売却するコトを考えた方がヨカったんではないかなぁ、と私は思います。例えば製造と販売とか、適用する最終製品の種類別とか、分け方はいくつもありますが、細かく切り分けた方が個々の売却金額は下がり、買収可能な企業が増えます。そうすれば、M&A実現の可能性も上がりますし、競合となれば価格も上がるでしょう。撤退してしまった有機EL事業だって、個別売却に出せば、買ってくれるトコロはあったんではないでしょうか。

 金融三社の出資から2年が過ぎ、そろそろ資金回収を本格的に考え出す頃でしょう。特にGSは足元のアメリカがおぼつかない状況なので、ココでの収益は最大化したいハズだと思います。携帯電話事業の売却で多少はリターンを受けたでしょうが、まだまだ足りないと考えているでしょうね。いずれは、電池事業や自動車関連製品事業の売却を打ち出してくるのではないでしょうか。そうなると、金融三社が手を引いた後、同社の成長戦略が描けなくなってしまうおそれがあります。

 同社の憂鬱は、まだ続きそうですね。


 ところで私が前回のエントリをアップロードした日(6月2日)、楽天がCS放送子会社の楽天TVをオリックスグループに売却してしまいました。TBSに対するアクションも見られなくなってしまいましたし、ど~やらメディア企業としての活動は縮小方向に向かっているようです。ネットユーザーのテレビ離れの進行や権利保護制度の混乱など、かつてよく言われた「ネットとテレビの融合」が進む気配すら見えない状況下、仕方のないコトかもしれませんが…メディア企業としての楽天に期待していた私としては、ちょっとガッカりです。

 それからチト古いハナシ(5月12日付け発表)ですが、古川電工が文書作成にOpenOffice.org(OOo)を採用することにしたそうですネ。よくまぁ、思い切ったコトをしたモンです。このblogではMSのOffice PersonalとOOoのプレゼンツールを使ってるんですが、後者の使い勝手はパワポに遠く及びません。提案用プレゼンを作る部署がヨく受け容れたモンだと思います。
 とりあえず6月3日に公開されたIBM版OOoであるLotus Symphonyをダウンロードしてあるので、次回はソレを使ってみるつもりです。あと、もぅちょっと経てばOOoの新バージョン(3.0)がクルはずですが……少しは良くなってるとイイなぁ。

2008年6月2日月曜日

株価についての、よしなしごと

 前回初めて、このblogで株価について触れました(チョットですけどw)。今回はそれに関して、うつらうつらと考えたコトを、徒然なるままに書いてみます。

 そもそも株価とは何でしょうか。理念的なものから卑近なものまで、色々な捉え方が為されています。その中の一つに、会社(の一部)に付いた値段、というものがあります。それに発行済み株式総数を掛ければ、会社全体の値段=時価総額となります。まぁ、実際その値段で買収されるコトは少ないんですけどね。時価総額は、いわゆる「企業価値」と呼ばれるモノの代表的なものです。


 一言に「企業価値」と言っても、それは対象企業との関わり方によって様々です。顧客から見た価値、従業員から見た価値、取引銀行から見た価値、納入業者から見た価値……それらはそれぞれ異なり、かつ流動的です。
 それらの中で時価総額は、情報としてオープンであるコトと評価者の数が多いコトが大きな特徴です。そうした要因から、時価総額は「企業価値の最大公約数(≒共通認識)」的なモノと言えると思います。
 そうであるからこそ、時価総額あるいは株価を、他の要素で説明する指標が、古くから数多く生み出されてきたのではないでしょうか。PER・PBRから、QレシオやPSR、EV/EBITDA等々…

 また、株価を予想する「モデル」も多く作られています。直近までの株価上昇期には、DCFやEVAを用いた、いわゆる「理論株価」が注目を浴びました。
 これらのアプローチは、事業が生み出すキャッシュフローや付加価値の積み重ねを現在の価値に割り引いたものを「事業価値」と捉えます。そして、事業価値と金融資産価値の合計を企業価値とし、それが時価総額とイコールになるという考え方です。まぁ試しにはじいてみると、理論株価が実際の株価より高く出る場合が、結構多かったりします。

 これには様々な理由が考えられますが、想定投資期間の差も、その一つと言えるでしょう。
 DCFやEVAという事業価値モデルでは、企業をGoing Concernとして捉え、無限期間を想定しています。一方、市場で行われる個々の株式投資は、無限ではありません。ある程度の期間にある程度の投資収益を求める、有限期間の行為です。同じモノを扱う上で、無限期間を想定するモデルと有限期間のモデルでは、前者の方が高くなる傾向が出てきてもおかしくない、つーか、その方が自然でしょう。
 但し、その「ある程度」の期間を、投資する時点ではっきりと認識している投資家は極めて少ないでしょうし、仮にそうであっても、後に変更するコトが多いと思われます。モデル化は極めて困難です。株式に対する投資期間に関する調査結果をドコかで見た覚えはありますが、全体に関する調査だったと思います。ソレを個別銘柄に適用するのは、さすがにムリがあります。

 また、投資家が求める期待収益も、把握するコトは極めて困難です。
 おそらく、多くの投資家、特に個人投資家の方々は、明確な収益期待を持って投資を行っているワケではないでしょう。なんとな~く、儲かりそうな銘柄に手を出しているコトと思われます。それでも、その「なんとな~く」には、「銀行預金やMMFよりは多くあって欲しい」とかの、あいまいな形での期待収益概念が含まれているだろうと思うんデスょ。さもなければ、わざわざリスクの高い資産に手を出さないでしょう。

 もし投資期間と期待収益(利回り)を考えるコトができれば、株価は利付債の理論価格と同じように形成されると想定するコトができます。投資期間経過後の理論株価は、その間の期待配当も含めて期待利回りで割引いた現在価値が、現在の株価となるようにすれば求められます。
 問題は上記のように、想定投資期間も期待利回りも分からないコトです。
 無理矢理求めるとしたら、代替要素としては、過去の実績を用いるしか無いでしょうね。投資期間については、取引所とか証券会社(あるいは系列のシステム会社)の扱っている売買トランザクションデータから、個別銘柄について平均保有期間のサンプルが取れるでしょう。配当は直近の実績を使うしかないかな?と思います。対象企業が予想を出していれば、それを使ってもいい。利回りも直近実績を使えばいいでしょうが、安全資産利子率を引いた超過収益率や、DCF法と同様の資本コスト(WACC)を使ってみる手もアリでしょう。色々試算してみて、落ち着きのいいトコロを使えばいいと思います。
 ~てな風にヤってやれば、形式的には算出することができるハズですが……労多くして益少なし、つーか、かかる手間とコストの割りに信頼性の低いモデルになりそうだなぁw

 さて、「ファンダメンタルズ」と呼ばれる企業の経営指標群や様々な経済指標から株価評価を行う職種が、「証券アナリスト」と呼ばれるものです。彼らのレポートでは例えば、「PER×0.5+PCFR×0.3+EV/EBITDA×0.2で見て、目標株価○○○円」なんて書かれたりすることがあります(ココで例示した指標と掛目はテキトーです)。
 なんつーか、理論付けに苦労してるな~、と思います。
 私も15年以上前に就職して以来、延々と「証券アナリストをやらせて欲しい」と会社に訴え続けてたんですが、結局ヤらせてもらえませんでしたorz (まぁ、ソレが退職の一因ではあるのですが)
 でも、最近の当該職種は、私の就職当時とは性格が変わってきているようですね。私が求めていた仕事とは、微妙に違っているような気もします。

 色々述べてきましたが、実際に個人として銘柄を見る上で私が使うのは、結局のところPERだったりしますw なんだかんだ言って、一番長期的に妥当性が高いように感じるんですョ。
 ただ、それがあてはまらなくなるのが、株価の上昇局面です。資金が流入して、PERで説明可能な範囲を超えて株価が上昇する段階になると、他の説明要因が求められます。1980年代後半のバブル期には企業の含み資産が注目され、Qレシオが使われました。2000年前後のITバブル期には、先行投資によって利益をあげられないIT企業を評価するため、PSRが使われました。直近の株価上昇期にはキャッシュフローが重要な評価基準となり、DCF法が理論株価算出に利用されました。
 次の株価上昇期には、どんな指標が使われるでしょうか。それを見つける(あるいは提唱する)金融機関や調査機関が、先行者利益を得ることになるでしょう。