同社のビジネスのカテゴリーは、家庭用ゲーム専用機向けゲーム、いわゆる「コンシューマゲーム」用ソフトウェアの分野です。
産業としてのゲームは大きく、ゲームセンター向けの業務用、いわゆる「アーケードゲーム」と家庭用に分かれます。家庭用ゲームソフトはPC向けとゲーム専用機向けがあるのですが、日本では作品数・販売額共に後者が圧倒的に多く、「ゲームソフト」と言った場合、その多くがコンシューマゲーム用ソフトのコトを指します。


1997年をピークに、拡大を続けてきた国内のコンシューマゲームソフト市場が、縮小に転じました。インターネットや携帯電話の普及に伴う余暇時間のうちゲームに割く割合の減少、少子化の影響、シリーズ長期化に伴う陳腐化等々、それには多くの要因が影響していたと考えられます。
更に、両社自身の経営戦略の失敗が重なりました。
スクウェアはCGアニメ映画「FINAL FANTASY」(2001年公開)に多大な予算(制作費約170億円)を割きましたが、興行成績は惨憺たる結果(日米合計約50億円)に終わり、大きな損失を蒙る結果となりました。損失自体はソニーコンピュータエンターテインメント(SCE)による増資でカバーしたのですが、そのコトはプラットフォーム選択の幅を狭める、戦略上の制限要因と言えるでしょう。プレイステーションの供給元であるSCEが大株主なのに、任天堂やセガ(当時)のゲーム機向けソフトは、出しづらいですょネ。スクウェアとしては、その制限を外したいモチベーションがあったと考えられます。
また、それに先立つ1999~2000年には、商品戦略の問題から、有力クリエータの退社が相次ぎました。
更に、2002年3月期には、続く市場縮小による販売量減少を受けて、販売子会社であったデジキューブの株式の一部を売却して持分法適用会社としたため、売上計上が減少しました。その後デジキューブは、2003年11月に破産してしまいました。
一方エニックスは、海外販売を軌道に乗せることができない状態が続いていました。国内とは異なり、海外のゲーム市場は欧米を中心に成長を続けていたのですが、その恩恵を受けるコトができずにいました。
また、主力商品であるDQシリーズの新作リリースが2~3年に1回であった上、DQに続く看板タイトルを生み出せなかったことから、業績が不安定でした。

カテゴリートップクラスの企業間におけるM&Aは、伸びていた市場が縮小に転じたトキの典型的な対応策です。守りのM&Aと言ってよいでしょう。最近でも、携帯電話販売の国内1位と2位(三井物産系のテレパークと三菱商事・住友商事系のエムエス・コミュニケーションズ)が2008年10月1日付けの合併を予定していますネ。
スクウェアとエニックスはいずれも、コンシューマゲーム用RPGではダントツのトップクラス商品を持つ、最大の競合相手であったワケです。その両社の合併は、競争の緩和をもたらします。競合シリーズの商品リリース時期をずらすコトなどで、競争による販売機会の逸失を排除できます。合併以前は、FFシリーズとDQシリーズの発売が重なり、一方が売上を伸ばせなかったコトがありましたが、合併でそうした状況は避けられます。合併後の同社は、コンシューマゲーム用RPG分野ではオンリー・ワンと言ってよい立場になりました。

タイトーは、アーケードゲーム機の開発・製造・販売と、ゲームセンター運営が主たる業務です。同社とタイトーとは事業ドメインが異なる企業であり、多角化のカタチを取った、攻めのM&Aと言えるでしょう。
もちろんトータルの事業規模を大きくするためだけではなく、シナジーも期待されていたことでしょう。2006年3月期分のアニュアル・レポートでは「多様なコンテンツ・サービスの提供手段を確保」したとの記載があるコトから、コンテンツの出口の多様化を志向したものであったと思われます。具体的には、同社製ソフトのゲームセンター版提供とか、同社が保有する漫画・アニメコンテンツのキャラクターを使ったアーケードゲームの開発とかいったトコロでしょうか。
同社による買収以前、タイトーの筆頭株主は、電子部品メーカーの京セラでした。
京セラにとってタイトーは、自社製電子部品のファーストユーザーとしての意味合いがあったと思われます。電機業界の総合化は、SETメーカーが系列下にPARTSメーカーを持つ例が多かったのですが、これはその逆に、PARTSメーカーがSETメーカーを傘下に置いた例と言えるでしょう。しかし、電機業界における総合化の意味が薄れてきました。この例では、アーケードゲームの変遷が、京セラがタイトーを保有する意味を低減させました。かつてのゲームでは、新機種導入時に機器を全て入れ替えており、多数の電子部品がその度に利用されました。その後、モジュール化が進んで新機種導入時に交換される電子部品の数が減り、更にアーケードゲーム機の中で、クレーンゲーム等の電子部品点数が少ないモノが増えてきました。京セラがタイトーを売るコトを決意したのは、こうした変化が背景にあったと考えられます。

同社によるタイトー買収は、買う側・売る側・売られる対象の三者にとって動機があった「イイM&A」の代表的事例として、私は評価しています(あくまでも買収時点において、ですけどネ)。
こうして短期間の間に同社は、守りのM&Aと攻めのM&Aの両方を行いました。投資銀行的には、成長を目指した攻めのM&Aを高く評価したいのが心情なのですが(次のビジネス=ファイナンスに繋がりますしw)、市場が必ずしもそう見てくれるとは限りません。

一方、同社がタイトー買収を発表した際には、同社の株価が一時的に上昇したものの、すぐ戻してしまいましたし、タイトー株はTOB価格(1株18万1,100円)に合わせただけでした。後者については、投資家の注目から外れていて、取引自体が細っていたという要因もありますけどネ。
こうした状況から、市場は、競争緩和による効果は評価しても、多角化の効果が短期的に出る期待はできないと判断したと考えられます。
結果としては、同社はタイトーというリソースを未だ充分活用できないままです。投資家のみなさん、大正解w
カラオケ事業からの撤退や、不採算店舗の閉鎖といったリストラ策で、2008年3月期にはタイトーを引き継いだAM等事業を黒字化しましたが、シナジーを出すには到っていません。
正直、両社のリソース共用の面では、もうチョっとヤリようはあるんでないの?とか思ったりします。例えば、タクティクスオウガのカードゲーム版とか、同社の漫画・アニメのキャラクターを使ったFPSとか、逆にダライアスあたりをお題にとった漫画・アニメとか、いくらでもアイディアは出るでしょうに。また、直近では若年層のゲームセンター離れが進み、新たな客寄せの手段が求められている状況下、コンシューマゲームや携帯ゲームと連携させた大型筐体やカードゲーム・コインゲームなど、同社が打てるテはあるでしょう。
まぁ、同社としては、アーケードのノウハウを時間をかけて熟成させる方向のようですし、長い目で見るべきでしょうネ。
さてその後、2003年を底に国内ゲームソフト市場は下げ止まり、徐々に回復傾向を示すようになりました。2006年には、任天堂DS(2005年12月発売)をはじめとする新ハードの普及が始まり、市場規模が拡大しました。カテゴリー・オンリー・ワンとなった同社にとっては、非常に快適な環境となったワケです。一方で既存シリーズの移植に頼る商品展開で、中長期的な成長エンジンが見当たらない状況です。そうなると、近い分野に手を出して成長を図るというモチベーションが生じるのは、自然なコトでしょう。

実際、同社はテクモに対して手を出した(2008年8月28日 TOB提案)のですが、テクモはコーエーと手を結ぶコトで、コレをはねのけてしまいました(同年9月5日 同社提案撤回)。実は今回のエントリで「テクモかコーエーに手ェ出すんぢゃないの?」と書こうと思ってたんですが、先を越されてしまいまスた。それどころか決着までトットと着いてしまったワケで…お笑いですナ orz
一方ハドソンはコナミの子会社であり、手を出しづらい対象です。
現在のところ、テクモやコーエー以上に合併効果が期待できる、買い易い対象はなかなか見当たらず、M&A戦略は手詰まりと言わざるを得ないでしょう。資本提携・事業提携への機動的対応を目的として持株会社化を予定していますが(2008年10月1日実施予定)、具体的案件がすぐに出てくるかは、チョっと疑問です。ミドルウェアの会社を買うとか、ネットゲームインフラの会社に手を出すとか、受託開発会社との提携を深めるとか、選択肢はいくつか考えられますが、成長に向けて即効性のあるモノは、現時点では考えられません。
当面は、FF/DQ両シリーズに続く目玉商品の模索や、漫画・アニメコンテンツの世界展開など、即効性は求められないケド真っ当な戦略を継続するコトで成長を図ることになるだろうと思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿