2008年8月31日日曜日

もうチョッと、付加価値連鎖。 +α

 前回は2種類の製造業における企業間バリューチェーンについて述べましたが、今回はもっと単純なバリューチェーンについて、少し語ってみたいと思います。
 ソの対象は、流通業です。商品の場所の移動が繰り返される毎に、付加価値=マージンが乗っていくワケで、製造業の垂直分業におけるソレより単純ですょネ。

 日本における流通の特徴は、その過程の複雑さです。生産者から消費者に届くまで、複数の中間事業者を通ります。代表的なモノが、生鮮食料品等の卸市場システムです。
 これに対して、欧米の流通は単純です。生産者と小売が直結しています。その間を、仲介業者(Agent)が仲介する形態が一般的です。
 んぢゃあ、どっちがイイか、つーても一概に結論付けられるモノではありません。単純に考えると、中間マージンが無い分、消費者にとっても小売にとっても生産者にとっても、欧米型流通の方が良さげに見えるのですが……

 消費者にとっては、絶対的な価格の安い方がイイというのはもちろんなのですが、それ以上に、急激な価格変動があると困る、つートコロがあります。給与所得には硬直性がありマスから。
 で、急激な価格変動が生じると、石油ショックのトキのトイレットペーパー獲得合戦の様なコトになってしまいます。直近のような、急激な燃料・原料価格高騰があった場合、欧米型流通システムだと、その影響が小売価格に直結します。
 これに対して、日本型流通システムにおいては、各流通主体がマージンを削るカタチで、出荷価格の変動を抑えようとします。その結果、消費者価格の変動が、相当抑えられます。テレビのニュースで、日本にいる外国人が「母国ではもっと価格上昇が激しい」つーてるのを見たヒトも多いでしょう。 試しに消費者物価指数の日米比較をしてみると……昨年(2007年)後半来の物価上昇局面において、確かにアメリカの方が日本より大きく物価上昇している月が多いですネ。

 それ以上に卸システムが機能するのが、流通業自体にとって、です。かつての流通システムは、図の例(農産品)で言えば、零細農家及び共同出荷団体としての地域の農協と小規模小売店(街の八百屋サンですネ)を繋ぐモノでした。そうした状況下で流通を合理化するためには、卸市場システム(卸市場において卸業者を介して商品が流通する仕組み)が有効でした。商品取引が集中するコトで、単位あたり流通コストは下がりますし、価格形成は公正化されますからネ。
 また、同一商品の在庫が流通過程の各企業に分散されるコトによるメリットもあります。例えば小売店では、同業同士で商品の融通が行われるコトもありますし、特定商品を複数の卸から調達するコトもあります。流通在庫というバッファが、品余り時の吸収余力にも、品不足時の供給元にもなっていると言えます。多層的な卸システムによって、個別の販売主体における在庫の極小化が為されているという考え方も出来るでしょう。

 もちろん、デメリットもあります。最大のモノは、上記の通り、マージンを取る中間事業者の数の多さによって、消費者にとって絶対的な価格水準が上がってしまうことですが、ソレだけでは無いと、私は思います。
 昨年(2007年)を通じて、食品偽装問題が世間を賑せました。その主体は、製造小売だったり外食だったり様々でしたが、加工卸業のソレが、最も数多く報じられたように感じます。
 ソの最大の原因は、大手スーパーなどの納品先からの価格引下げ要求に対応しつつ利益を確保したかったという動機だろうと思いますが、最終消費者のカオが見えない状況だったコトが、ソレに歯止めがかからなかった理由の一つではないかと思っています。
 スーパー等の小売店で起きた偽装については、逆に生産者のカオが見えない(=ドコから来たモンだか分かりづらい)状況から、売っているモノに対して誇りが持てないコトが、その原因の一つではないかと思います。

 そうした日本の流通システムに、変化が生じています。
 小売業の中心が、イオンやイトーヨーカドー等の、大規模小売店になりました。一方で、出荷団体である農協や漁協の合併が進みつつあります。この変化は、卸市場システムにおける、取引集中の意味を低減させます。
 そうした状況を背景に、卸市場を通さない、市場外取引が増えています(市場取引率が低下しています)。燃料・原料価格の高騰を背景とした中間マージンの排除のために、その傾向は加速するだろうと思います。
 最近でも、イオンが近畿・関東・東北の漁協との直接取引を始める方針を発表しましたネ。また、小売業者が個別農家と、契約農場のようなカタチで直接契約するケースも増えています。

 こうした変化は、小売店にとっては在庫リスクの増加をもたらします。よりシビアな需要予測が求められるでしょう。
 一方、生産者側の課題は、規模の拡大です。農協や漁協の合併が進んでいるとはいえ、そのセリング・パワーは、大手小売業のバイイング・パワーに対して脆弱と言わざるを得ません。より大規模な合併や、企業化の推進といった施策が重要になってくるでしょう。一次産業の企業化は、食料自給率向上策の一環として取り上げられるコトが多いのですが、バリューチェーン的な考え方からも、これを推進するコトが求められると言えます。


 さて、その食料自給率向上策ですが、最近取り上げられるようになったのは、やはり燃料・原料価格高騰による食料価格高騰がキッカケです。投機資金の流入やバイオエタノールへの穀物利用の拡大が原因として挙げられていますが、ソレらが一段落付いても、状況が大きく変わるかどうかは疑問です。世界人口の増加が続く上、新興国における食の欧米化の影響も無視できなくなってくるおそれがあります。食料自給率の向上は優先度の高い課題だと、私も思います。

 だいぶ前にWBSでUFJの五十嵐サンが「自給率を上げるには、肉と油を摂る量を減らして、その分コメを食べればイイ」とおっしゃっていたのが印象に残っています。ですが、さすがにコレは極論で(翌日、千葉商科大の斉藤センセも「元に戻すのはムリ」とおっしゃってましたがw)。タマには肉をガッツリとイきたいですょネ。
 とはいえ、食の主役はやはり農産物なワケで(酪農部門でも飼料が必要ですし)。まずは農産物の自給率向上が重要ですょネ。
 日本の農業が成り立たないのは、やはり、個別農家による小規模経営で、単位コストが高いコトが一番の原因でしょう。後継者不足も深刻化してきていますネ。
 コメとか小麦とか大豆とか、大量に必要とされる、生活の基盤になる食材については特に、企業の参入を促進して、生産コストを下げつつ、事業の継続性を上げるコトを考えるべきだと思います。
 地方の仕事にアブれたゼネコンを農業企業に転換すれば、雇用拡大(ひいては少子化対策)にもなると思うんですが、どうでしょう。元々、農家の次男以下の方々とかが地方ゼネコンの主戦力だったこともありますし、この転換には、大きなムリは無いだろうと思います。実際、そうした転換の事例も増えているようですし。つーか、建設業における倒産数が増加する状況下、行政府の支援でその転換を加速した方がイイんでないですかね。とりあえずは株式会社形式の農業法人による農地所有の制限緩和(イキナリ解禁は問題ありそうですが)とか農業生産法人の構成要件緩和とか。ツイでにこぅした策は、与党の票田対策にもなるんではないですか?w

 ただ、農業生産を拡大すると、コメ余りの加速が危惧されます。作るだけではなく、売る側にも工夫を講じる必要があります。パンや麺類などへの米粉利用拡大とか、企業参入促進によるコスト削減→価格引下げをヤりつつブランド米の輸出拡大を図るあたりが、まず取り組む課題になるんでしょうが……
 ワタクシ的には、米を原料とした生産物である日本酒の海外進出なんかは、考えて欲しい施策だったりします。まぁ、米の種類が違うワケですがw ただ現在は、税制とか相続とか商圏とか厳しい制限が多く、酒蔵や酒販業者による輸出拡大は、あまり現実的ではありません(宝酒造アメリカ工場製の日本酒がカナダで売られるなんつー、例外的な事例はありますが)。一時的な税収減を招くおそれがあるため、所轄官庁はそうした制限の緩和には積極的に取り組んでくれません。ソコはちょっと考え直して、日本文化の普及促進も絡めてやれば、外国からの観光客誘致にも、ヤりようによっては資本誘致にも繋げるコトができると思うんですが、どうでしょう。輸出増加でトータルの販売量が増えれば、結果として酒税収入も上がるでしょうし。オマケに、酒米は炭水化物含有率が高いそうなので、バイオエタノール原料としても使えないかなぁ、とか思ったりw

 ただ、いずれにしても、中長期的な方針をある程度定めた上で実現化する方向で進めないと、実現できるものではありません。変化の激しい昨今、さすがに「国家百年の計」はムリですが、例えば1年・3年・5年の短期~中期の目標や10年・30年といった長期のガイドラインを定めて、それを実行策にブレイクダウンする形にシフトすることが必要です。そうした目標を一般に公開するようにすれば、国民の理解も得易くなるでしょう。現在叩かれている年金・保険政策のようなコトも、少なくすることができるだろうと思います。
 もちろん、一度設定した目標を金科玉条のように奉るのはよろしくないワケで、それこそ常に見直しを加えていく必要があります。ただ、一般企業はそうした経営計画策定や目標の設定及び見直しをフツ~にやっているワケで(大手企業は公開もしてますし)、優秀な人材が揃っている政府や行政機関が出来ないワケは無いだろうと思うんですけど…
 政府の「骨太の方針」も、最近では数値ベースの明確な目標を提示しなくなってるし、もうちょっと分かり易い形にして欲しいものです。

0 件のコメント: