2009年11月17日火曜日

デフレ論争雑感

先々週末~先週半ばにかけて(11/7~10くらい)、リフレ政策に関する論争が、ネット上で華やかに行われました。
経緯としては、勝間和代女史が国家戦略室で「デフレを止めましょう」と提言したことに対して、池田信夫氏をはじめとする論客が、勝間女史の依って立つ“貨幣数量理論”を批判するという展開でした。
ロジックとしては批判派の方が理路整然としていますし、グラフも合わせて説明されると、さすがと唸らされてしまいます。

ただ、グラフの出元が、書き手の優秀さをイヤという程感じさせる一方で、勝ち組お金持ちサンとして「貧乏人なんぞ切り捨てちまえ」という論調を展開するトコロに、負け組貧乏人であるワタシは orz となったというトコロもあるでしょうが…
ワタクシ的に、ちょっと釈然としないものが残ったわけです。で、ちょっと角度を変えて考えてみました。


日銀による貨幣供給(=マネタリーベース)が明らかに増加傾向を見せ始めたのは、1999年末ですね。
それが2000年のITバブル崩壊を期に加速したのですが、これは、貨幣数量理論に基づく景気刺激策であったものと考えられます。
しかし結果はご存知の通り、2003年以降の世界的景気拡大による外需増加まで、日本経済が好転することはなかったわけです。
これを以って、リフレ政策批判派はゼロ金利環境下では金融政策は意味をを持たないとしているところであって、それは説得力があると思います。
2003年までの状況は、流動性トラップが生じたことにより、貨幣供給が景気刺激にならなかったものであると思われます。

2003年以降に現れた変化として、投資収益(証券投資+金融派生商品投資)の振幅が拡大傾向を明らかにした、すなわち対外金融商品投資が拡大したことが挙げられます。
日本で調達した資金を海外へ投資する、いわゆる“円キャリートレード”の拡大ですね。
これによって円の国際価値は下落を続け、対ドルベースでも円安に転じた2005年以降、それが加速すると共に対外金融商品投資がさらに増加するという局面を迎えました。
つまり2003年以降は、増加した貨幣供給の効果が、国内における消費よりも対外投資が選好されることによって発散してしまった部分があるのではないかと思います。

2006年半ばには、日銀が貨幣供給を絞ると共に、ゼロ金利を解除しました
このタイミングでそうした施策を行った一つの狙いとして、円キャリートレードの縮小によって金融政策の有効性を取り戻そうとする狙いがあったのではないかと推測されます。
しかし、対外投資の拡大傾向は続きました。
米国において不動産バブルの変調が明らかになった2007年半ばになってようやく、為替が反転すると同時に対外投資の拡大は止まり、2008年のリーマン・ショック以降、縮小することになりました。

こうして“ミセス・ワタナベ”が投資活動を終息させた2008年末から2009年第3四半期までは、金融政策=貨幣供給が高い効果を挙げ得た、千載一遇のチャンスであったのではないかと、ワタシは思います。
ただしその効果は、勝間女史がおっしゃるような、デフレ脱却効果ではありません。消費者行動が生活防衛にシフトしている現在、流動性供給は、やはり流動性トラップによって効果を失うことでしょう。期限付き消費券との組み合わせなら、多少は効果が出るかな?
それよりも期待できるのは、為替に対する効果です。
2008年以降、国際的にも対ドルベースでも上昇傾向を続ける円を、流動性供給=量的緩和によって円安方向に誘導してやれば、輸出競争力が強化されます。

昨日(2009年11月16日)発表された2009年第3四半期(7-9月期)GDP速報では、前年同期比1.2%と大きな伸び、そのうち外需の寄与度は0.4%でした。
その前の第2四半期(4-6月期)には全体で+0.7%のうち、外需寄与度が1.5%でした。
この数字は、この時期に量的緩和策をとっていれば、もっと大きいものに出来たのではないかと思います。
英国が量的緩和で対ユーロベースのポンド安を演出し、大陸欧州向け輸出を拡大しているのと同様の効果が期待できたのではないでしょうか。

では、勝間女史のおっしゃる通り、これからやったらどうなるか?
ノルウェーやオーストラリアといった資源国が金利上昇に転じ、欧米諸国も“出口戦略”を探る状況です。
こうした状況下で流動性が供給されたら…
再度、“ミセス・ワタナベ”が活動を開始することで、対外投資に発散してしまうのではないでしょうか。
正直、時既に遅し、だと思います。

経済にとってデフレがよろしくないということに、異論はありません。
ただ、それに対する処方箋の“1番ピン”は、やはり雇用対策だと思うんですよねェ。

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