2008年8月21日木曜日

二つのバリューチェーン

 今回のタイトルの「バリューチェーン(価値連鎖)」とは、経営学の観点から企業活動を捉える概念の一つです。
 そこではまず、企業活動を主活動と支援活動に分けて考えます。支援活動には、全般管理(インフラ)・人的資源管理・技術開発・調達活動が含まれます。主活動を更に、購買→製造→出荷→販売→サービスという一連の過程に分けて考えます。
 この全体がバリューチェーン・モデルなのですが、ここでは「企業活動を、複数の付加価値を生み出す過程が一連の流れを為すものとして捉える」位に考えて下さい。

 バリューチェーン・モデル自体は個別企業の経営モデルであり、主活動を構成する各要素の効率化が、企業の競争力向上に繋がると見るものです。
 しかし、多層的な階層構造をとり、最終ユーザーに到るまで複数の企業を介するような産業(要は垂直分業体制にあるトコですネ)では、企業間取引において、バリューチェーン・モデルに準じた考え方が適用できると、私は考えています。
 ですから私は、かつてIPOアナリストとして取材させて頂いた未上場企業サンのうち、それが適用できるような状況にあると思しき相手には、営業戦略として「直接顧客の一つ先にアプローチしましょう」とか「最終顧客の二つ手前にあたる企業に訴えかけましょう」とか提言するカタチで、バリューチェーン的な考え方をするコトをアドバイスしてきました。
 まぁ、大概の企業サンは直接顧客に対応するのが精一杯で、そうした提言を受け入れられるトコは極めて少なかったようですけどネ。

 さて、過去に数回のエントリを費やして扱ってきた電機業界では、部品(PARTS)→機能部品(DEVICE)→最終製品(SET)という多層構造が成り立っています。
 かつてはSETメーカーとしての総合電機及び総合家電企業による系列化等のカタチで、その多層構造が垂直統合される方向にありました。これに対して、ここ十数年来の動きとして「脱総合化」の動きがあるコトを、以前のエントリで述べました。
 従って電機業界においては、企業間バリューチェーン・モデルが成り立つのではないか、という仮定を立てるコトができます。

 ところで電機業界では、バリューチェーンにおける付加価値の源泉に関して、ある特徴が指摘されています。「スマイルカーブ」と呼ばれるモノです。
 スマイルカーブ自体は、台湾Acer社の創業者サンによって提唱されたもので、PCメーカー単一企業あるいは当該企業グループを想定したものと考えられます。ココでは、主活動を企画→部品調達→製造→販売→サービス(メンテナンス等)に分けて捉えます。そして、縦軸を各過程の付加価値とし、左側が上流、右側が下流という流れに各過程を配したグラフを描く場合、笑ったトキの口のようなカーブになるとされます。
 PCは電機業界の中でも主要な部分となっており、また、脱総合化の過程で行われた標準化によって、他の機器も含めた電機業界全体が、近い性格を持ち合わせているコトが想定できます。もしソレが正しければ、電機業界における企業間バリューチェーン・モデルでスマイルカーブが描けるコトになります。

 そこで、電機業界に関わる企業の付加価値率(ココでは経常利益率)を縦軸とし、横軸に電機業界に属する各企業を、左に上流、右に下流という形に配して、グラフを描いてみます。またココでは、業態の流れを上流から基礎技術→部品→製造→販売としてみました。
 チョっと前の業績を元に、このグラフを作ってみると、まぁ大体、スマイルカーブを描けていると言えるでしょう。実はコレ、若者に経営戦略論を教えるトキの小ネタの一つに使っていましたw
 ちなみに直近(2008年8月20日現在を基準)の業績を使ってグラフを描いて見ると……携帯電話技術提供企業の業績悪化と赤字SETメーカーの「選択と集中」による業績回復で、大分フラット化されてはいますが、一応スマイルカーブに見えなくもないかな。
 とりあえずは、電機業界の企業間バリューチェーン・モデルを否定するコトはできない、位は言ってよさそうです。

 この状況から、最も付加価値の低い製造工程の企業がどうすればソレを上げるコトが出来るか、という課題が見えてきます。
 単純に考えれば、両側に位置する、より付加価値の高い部分を取り込むコトです。具体的には、直販化と部品の内製化ですょネ。
 直販化は、ネット販売のカタチで各メーカーとも取り組んではいますが、主要販売網の一つとはとても言えない状況です。量販店との関係もありますので、積極的に拡大するコトは、かなり難しいでしょう。
 一方、部品の内製化については、最近になって各メーカーが積極的に進めてきたモノがあります。薄型テレビにおける、パネルの内製化がソレです。
 薄型テレビにおけるパネルの内製化については、いくつかの要素で語られています。

  • 需給の問題~完成品(SET)であるテレビの需要の伸びに対して、機能部品(DEVICE)であるパネルの供給が足りない。
  • 価格の問題~テレビSETのうち、パネルDEVICEの価格が占める割合が最大であり、SETの価格決定要因として大きい。
  • 差別化の問題~テレビSETの差別化要素である画質に対して、パネルDEVICEの影響度が大きい。
等といったところですが、バリューチェーンの考え方からも、ソレを説明できるというワケです。

 さて、コレと同じ分析を、産業ピラミッドのもう一つの頂点である、自動車業界でやってみると……スマイルカーブは描けません。
 電機業界との違いとして最も目立つのは、SETメーカーの優位性ですね。
 これは、標準化が進んでいる電機業界と異なり、自動車業界がいわゆる「擦り合せ型」産業であるコトが大きく影響していると思われます。SETメーカーが仕様を決定し、系列下の部品メーカーがソレに沿った部品を作る。スマイルカーブにおける、高付加価値の「企画」機能を取り込んでいるコトが、自動車業界においてSETメーカーの付加価値が高い原因という説明をするコトができます。
 問題は、いつまでその状況を維持できるか、というコトです。

 自動車業界は、二つの大きな課題に直面しています。一つは発展途上国での普及拡大、もう一つはガソリン内燃機関から次世代技術への移行です。
 発展途上国における普及拡大は、先進諸国の景気減退によって、自動車メーカーにとって、より重要になっています。ただ、それを促進するためには、価格を下げて販売量を増やすコトが必要です。そのためには、電機業界が進めたような標準化が、ある程度必要になってきます。
 発展途上国の中でも市場拡大期待が大きいのがインドと中国なワケですが、後者では既に、地場の小規模メーカーが多数乱立している状況です。そうした状況を背景に、自動車部品の国産化という国策も相まって、自動車産業の標準化が進みつつあります。同一規格のエンジンを複数メーカーが生産するようなコトが、始められています。部分的にではありますが、自動車産業の「組立型」化の方向性が見え始めています。そうした変化が進んだ場合、SETメーカーである自動車メーカーの得る付加価値が下がってしまうおそれがあります。
 以前述べたように、自動車には大量生産品としての方向性と嗜好品としての方向性があるワケですが、コスト効果が重視される業務用車両(トラックとか商用バンとか)では前者が重視され、標準化による組立型産業化の方向に向かうのも止むを得ないかな、と私は思います。
 また、次世代技術への移行は、電気自動車に対応するための充電施設や燃料電池車のための水素ステーション等が必要となる、社会インフラ全体に影響を及ぼすモノです。この大掛かりな変化は、自動車メーカーが単独で対応できるものではありません。複数の業界を巻き込んだ統一規格を策定するカタチでの、標準化の推進が必要でしょう。
 こうした状況下で、日本の産業の牽引役の一つである自動車メーカーが、如何にして差別化を図るかという点は、注目に値すると思います。

2008年7月31日木曜日

ヤマダ電機よ何処へ行く?

 北京オリンピックを目前に控え、薄型テレビ商戦が続いています。私も買っちゃいました。日立の37インチ薄型液晶。私がソイツを買ったのは上新電機のネット通販なんですが、今回はソコではなく、同業で代表的な企業つーか最大手のヤマダ電機(以下「同社」)を取り上げます。

 同社は現在、総合小売の大手二社(セブンアンドアイとイオン)に次ぐ売上規模を誇る、専門小売としては最大手の企業です。特筆すべきは、その成長の早さです。ここ10年間で、売上が7倍以上、利益(経常利益ベース)が12倍以上になりました。

 小売の成長モデルとしては、大きく分けて二つの方向性があります。一つは売る場所を増やすこと、もう一つは売るモノの種類を増やすことです。
 前者の方法には、店舗の数を増やすのと、個々の店舗を大型化するものがありますが、大概は両方とも進めていきます。尤も、既存店舗の拡張には限界がありますので、新規店舗として、より大型の店舗を出店するのが一般的です。結果として、まずは店舗数を増やすことが、小売業における基本的な成長戦略となります。
 同社の場合を見てみると、売上増と店舗増がキレイにリンクしていることが判ります。結構高い相関性を持って、出店増による売上拡大を実現しています。とはいえ、ドコでもどんどん出店していけばイイかというと、もちろんそういうワケぢゃない。

 小売屋サンをちょっと調べてみると、その超ドメスティックさに気付きます。同じモノを売るんでも、東京の学生サンに売るのと大阪のオバちゃんに売るんぢゃあ、同じヤり方でウマく行くハズがない、つーコトですな。
 同社の場合は、事業のスタートが群馬なコトから、関東エリア及び隣接する中部エリアが得意なトコです。2000年3月期には、店舗数・売上共に70%以上が両エリアのものでした。その後、出店やM&Aによってその他のエリアでの店舗を増やしたとはいえ、2007年3月期に到っても、両エリアで店舗数及び売上の過半を占めています。特に、関東エリアの占める位置付けが依然として高い点が目立ちます。しかし、これまでの出店戦略は、限界に近づいています。

 同じ商品を扱う店舗が近くにあった場合、顧客の取り合いになります。もともとの同社の出店戦略は、他社既存店のそばに、より大きな、品揃えの良い店舗を作って、ソコのお客さんを奪ってしまうというモノでした。他社との競争ならまだよいのですが、店舗が密集してしまうと、自社店舗同士での顧客の取り合い(カニバリゼーション)が生じるおそれがあります。
 私はさいたま市南部在住なのですが、ウチからクルマでちょいと行ける範囲に、同社の店舗が5つありますw 既に「カニバリ★上等」な状況と言えるでしょう。この地域には同社以外にも、でんきちやらコジマやらケーズやら、同業他社の店舗が数多くあります。さすがに、飽和状態と言わざるを得ません。
 それでは周辺地域に行けばイイかというと、今度は地域人口が少ないので、出店効果が下がってしまいます。関東以外の地域では、そのエリアを得意とする電器屋サン(中部・中国地方のエディオンとか、関西の上新電機とか)との競合が生じます。
 また、ガソリン価格の高騰で自動車利用の減少傾向が出てきており、郊外の幹線道路沿いに出店する「ロードサイド型」の戦略を取って来た同社や同業他社には、逆風が吹いていると言えます。

 そこで注目されるのが、いわゆる「都市型店舗」の展開です。上記のロードサイド型に対して、主にターミナル駅の徒歩圏に出店するのが、都市型店舗です。ただ、カテゴリー分けされているというコトは、既に当該分野に競合他社があるワケで。カメラ屋さん出自の、ヨドバシカメラやビックカメラ(以下「ビック」)等が、コレにあたります。ここでも同社は、池袋や高崎でビックの目の前に都市型店舗「LABI」を出店して、ケンカ売ってますw

 とはいえ、同社が得意なロードサイド型と、ビックみたいな都市型では、チョイとビジネスの有り様が違います。ソレが端的に現れているのが、商品群別売上構成。電器屋サンの成長が、PC及び携帯電話の普及や、その後のAV家電のデジタル化による代替を背景としてるため、AV機器が結構な割合を占めてるのは同じなのですが、それ以外がチト違う。
 ロードサイド型だと、週末にクルマで乗り付けた家族が、冷蔵庫とかエアコンとかの白物家電を買ってくイメージ。一方の都市型は、単身者がノートPCとか携帯電話を買って、ソレ持って電車に乗って帰るイメージで捉えると、大体合ってるんでは無いかと。
 また家電以外の部分も、ビックのソレは同社のソレの倍以上の比率を占めています。例えば有楽町ビックにはゴルフ用品売り場があって、平日の昼間からおぢさま達で結構賑わってたりする(私が立ち寄ったトキにたまたまそうだったのかもしれないスけど)んですが、同社にソレをすぐヤれつーても、無理というモンでしょう。
 後発の同社が、中心顧客層の違いから生じる、売りモノの違いによる売り方の違いをフォローアップするには、ちょっと時間を要するんではないでしょうか。それから、都心部だけに土地確保の問題があって、コジマとかラオックス相手にうまくいった「後からもっとデカい店を出す」テが使いにくいのも、同社にとってはツラいトコですね。

 私自身はLABI池袋には行ったコトはないのですが、LABI新橋は行きました。ちょっと前に、とある金融機関に面接に行った帰りに(ソコは2次面接でハネられちゃいましたorz)寄ってみたんですが、あんまりパッとしないなぁ…つーのが第一印象。LABIなんばの苦戦も伝えられていますし、もし機会があれば「ぶっちゃけLABIどうョ?」つーのは訊いてみたいトコですねぇ。

 というコトで、従来の成長戦略は壁にぶち当たりつつありますし、都市型店舗展開をウマくやるには、もうちょっと時間がかかりそうです。そんな中でも、高成長を背景に外人サンの持ち株比率が高まっちゃった同社としては、ソレが売られるのを防ぐ意味でも、継続的な成長戦略が必要なワケで。必然的に、二番目の成長戦略である、売りモノの種類を増やすコトを考えることになります。
 最近では自動車販売への参入なんゾを発表して話題になったりしてマスが……私としてはその前に、既に買った会社のリソースの有効利用を考えた方がヨカったんぢゃない?とか思ったりします。

 自動車をロードサイドの電器店で売る、つーコト自体は、悪くない発想だと思います。来店する顧客はクルマで来るワケで、その時点で自動車販売の潜在顧客。価格面での優位性が重要なのはもちろんですが、それ以外に、駐車場なり屋上なりで複数メーカーの同ランク車を比較試乗できる、とかの差別化要素を打ち出せればイイ。ついでにカーオーディオとかカーナビなんかのアクセサリ電機類も合わせて売れば、もっとイイ。ですが、既存店でソレをできるトコは少ないでしょう。新規店が中心になるんでしょうが、出店限界が近い上に自動車利用自体が減少傾向にある状況下では、成長戦略としての有効性には疑問符が付きます。ソレよりも、都市型店舗での取り扱い商品の差別化が効くんではないかと思うんデスょ。
 その意味で、2007年9月に、キムラヤセレクト(以下「キムラヤ」)を同社が買収したコトには注目してたんですが…。

 ブランド物の衣料品やバッグ・アクセサリを扱ってたキムラヤは、電器店の業態転換としては成功例だったと思います。携帯電話の近くにブランド物のネクタイが置いてあるのは、面白い空間でした。ケータイの様なライトな電気製品とブランド物って、購買層がかなりかぶると思うんです。商品の選択基準でカタチだったり色だったり手触りだったりが優先度高い点も、同じですょね。例えば、ブランドスーツの展示用マネキンの首からストラップでケータイ下げて展示するとか、PRADAのバッグとPRADA携帯を組み合わせて売るとかがあっても面白かったんじゃないでしょうか。まぁ実際は、ブランド物の取り扱いは縮小する方向のようですが。
 また、キムラヤにはドラッグストア部門もあります。電機の中でも衛生・美容・健康用品と合わせた売り場展開なんかも考えられたんではないでスかね。

 それから、2002年に買収した、ディスカウントストアのダイクマのノウハウも、使わないともったいないでしょう。電気製品だけであれば取引先は限定的で、これまで同社が伸びてきた一因である、パワーゲーム(ココでは、大量販売を背景とした、仕入先との値下げ交渉)を通じた原価低減でイけます。しかし、多品種展開をするなら、そうはイかない。バイヤーの育成とか問屋との関係構築とか、ヤらなきゃいけないコトはいっぱいあるワケですが、ソレってダイクマでは既にヤってるハズですよね? ロードサイド店で多品種展開するなら、自動車よりも、例えばインテリア家具(確かダイクマで扱ってたと思うんデスけど)なんかの方が、親和性は高いでしょう。それ以外にも、食品類の売り場で調理家電をデモする、なんつーのもアリかもしれない。

 ……などと、その可能性についてイロイロと考えるコトは出来るんですが、いずれにしても、予想にすらなってません。
 株価のリカバリーもインデックスより大分遅れています(2008年7月末時点)し、同社自身が新たな成長戦略をアピールするコトが、そろそろ必要なんぢゃないですか?

2008年6月19日木曜日

三洋電機の憂鬱 +α

 前々回は電機セクターのうち、勝ち組企業(三菱電機)を取り上げましたが、今回は負け組企業を取り上げます。

 電機セクターの全ての分野を扱う総合電機以外にも、電機メーカーは数多くあります。重電では富士電機や明電舎、産業分野では空調のダイキンやロボットの安川電機、情報機器ではNECや富士通、半導体の京セラやロームなどなど…
 それらの中では、薄型テレビやデジタルカメラなどデジタル家電のコモディティ化で、民生部門の収益が悪化しています。その影響を蒙った企業としてはパイオニアや日本ビクター等が典型的なのですが、その中で今回は、三洋電機(以下「同社」)にスポットをあててみましょう。

 民生用電機すなわち家電分野で代表的な企業は、白物を含めて幅広い分野をカバーする「総合家電」の松下電器産業と、AV機器を中心とするソニーの二社です。その下に総合家電の同社とシャープが続き、更に下位にAV機器メーカーのパイオニアや日本ビクター、ケンウッド等が位置します。
 下位グループに負け組企業が多いのは、商品の価格低下で、体力の少ないトコが先にバテているというコトでしょう。同社の場合は、理由はソレだけでは無いですけど。

 子会社減損計上の厳格化を理由として同社は、2007年末に過年度分の決算修正を発表しました。修正は単独分だけだという発表でしたので、連結は時系列比較できるだろうと見てみると……コレが出来ないんデスorz
 同社の決算では、2006年3月期分以降、撤退した事業については「非継続事業」として損益通算して開示しています。前期分も同様の処理をするので、二期分の比較をすることは出来るのですが、中期的に掘り下げた分析は出来ません。
 2007年3月期業績については、同期の決算短信と2008年3月の決算短信で、だ~いぶ違ってきています。2008年3月期には携帯電話事業を京セラに売却しました。当該事業は、同社の中ではカナ~り、大きなものであったと推測されます。コンシューマ部門の売上計上減少分がすべてソレだと仮定すると、(1,017,682-684,595)÷2,215,434で、ざっくり15%。こりゃデカい。これだけデカいモノを無視して、時系列分析するワケにはいきません。

 時系列がダメならセグメント別で、と考えてみても、それも出来ません。例えばコア事業として位置づけられるコトになった半導体事業の状況を見ようとすると……コレも分かりません。半導体事業はコンポーネント部門に含まれますが、その内訳は開示されていません。

  • 2006年3月期:「半導体では、新潟県中越地震の影響から新製品開発が遅れ、顧客からの受注が震災前の水準まで戻らなかったことにより、売上は減少した」

  • 2007年3月期:「半導体は、製品の選択と集中などこれまで進めてきた構造改革の結果、売上は減少した」

  • 2008年3月期:「半導体は、市場環境の悪化と価格下落の影響により、売上が減少しました」

と、状況を極めて簡易にw説明しているのですが、これでは何も分かりません。ファクトブックではもう一段細かい区分による開示になっているのですが、それでも「電子デバイス」という区分で、半導体と一般電子部品がまとめて扱われていますし、何より直近期の情報が分かりません。
 まぁ、セグメント情報が細かくないのは、同社に限ったコトではないですけどネ。

 というワケで、現時点で同社を分析しようという試みは、憂鬱な結果になってしまいマス。ファンダメンタルズを見て同社への投資を判断するには、非公開情報が手に入る立場にないと無理ですねぇ。

 さてこの様に、業績情報の開示という面で憂鬱な同社ですが、業績自体も、置かれた環境も、経営組織の問題も、何れ負けず劣らず憂鬱です……というのが今回のお題w
 有価証券報告書や決算短信に記載されている業績の時系列推移で、同基準で評価できるのは売上高と当期純利益だけですが……かつて同社とほぼ同格であったシャープと比べると、その差は歴然です。
 依然としてデジタル家電の急激な価格低下が進む中で、同社が得意とするコンパクトデジカメは特に、アジアメーカーの低価格製品との競争に晒されています。機能や性能での差別化の訴求力は弱く、収益の改善は困難です。コンデンサや洗濯機など、個別プロダクトで優位にある商材はあるのですが散発的で、全体としては商品力の低下が続いています。一方で、新潟地震の影響、経営陣の交替、提携戦略の混乱など、経営は迷走を続けています。電池や洗濯機などで、製造不良の問題も注目を浴びてしまいました。この状態から同社を立て直すのは、一朝一夕には行かないでしょう。

 こうした状況下、同社に手を差し伸べた、いや手を出したのが、ゴールドマンサックス証券(GS)、大和証券SMBC、三井住友銀行の金融三社です。2006年3月に優先株の形で出資したのですが、もちろん慈善事業ではなく、目的はソレによる利益です。

 投資銀行やファンドといった、金融機関による対企業投資案件の仕上げ(エグジット~exit)には色々あるのですが、最終的には保有株式や債権等の金融資産ないしは投資対象企業の保有資産や事業等を売却して、投資資金を回収します。
 投資先が成長企業であれば、放っておいても株式が値上がりし、利益が発生します。しかし問題企業の場合には、何がしかの手を打たないと収益を生みません。代表的なものが、経営者を送り込んだり顧客を紹介したりして事業を建て直すコトで投資対象企業の価値を上げる、いわゆる「再建」です。そうでない場合にはそのママ他者に売却するのですが、買ったものをまるごと売却しても利益が出るコトは考え難いので、売り方に工夫が必要です。そのひとつが事業分割等による切り売りです。「仕入れた魚を売るのに、一尾まるごと売るより切り分けて売った方が高く売れる」なんて言い方をされたりします。

 金融三社が支援に入った時点で、エグジットは切り売りだろうなぁ、と感じました。残るのは、三洋電池(仮称)+三洋オートモーティブ(仮称)+α程度かなぁ…とか。同社の状況は前述の様にgdgdですし、1980年代のアメリカにおけるLBOを用いた企業切り売りの流行を経験しているGSが入るとなれば、そう感じるのも不自然ではないだろうと思います。
 実際、2007年には半導体事業の売却が話題に上りました。結局うまく行かなかったのですが、いまだに不思議に思うのは、最後まで同事業の一括売却にこだわった点です。まぁ確かに、一括売却出来れば、投資した金融三社にとっては、楽に儲かるコトにはなりますが。金融三社の担当者があまり半導体に明るくなかったのか、GS内部に蓄積されているであろう企業分割のノウハウを日本側で利用できなかったのか、原因は分からないですけどね。

 「半導体」と一言で言っても、その範囲は非常に広いのですが、同社の様な電機メーカーが扱うのは、半導体を用いたICやトランジスタなどの電子部品(Parts)や、ソレを組み合わせた機能部品(Device)です。最終製品に使われてナンぼ、なワケです。だからこそ、以前のエントリで述べたように、かつての電機セクターにおいて「総合化」の意味が大きかったのですが、それも今はムカシ。
 で、同社の半導体製品はどぉかというと……三洋半導体のWebページを見ても、「幅広くヤってますねェ」くらいしか分からない。とはいえ、同社の最終製品で主要なモノというと、まず洗濯機とデジカメなワケで、それらを中心とした商品を頂点とした産業ピラミッドを支える製品群が主力であろうと推測されます。
 コレをまとめて売ろうと思うと、その相手は限られます。事業会社であれば、洗濯機=白物家電とデジカメ=デジタル家電の両方をヤってるトコ…総合家電や総合電機です。半導体全般を扱うメーカーも対象になりますね。あるいは、そういうトコロに売却するコトを前提で、ファンドや投資銀行。話題にのぼったのは、ロングリーチやアドバンテッジパートナーズといったファンドでしたね。それがダメとなったら一転、「半導体はコア事業」と言い出した変り身の早さは、見習うべきかもしれませんがw
 ただ、ソコであきらめてしまわずに、もっと細かく分割して、事業会社に売却するコトを考えた方がヨカったんではないかなぁ、と私は思います。例えば製造と販売とか、適用する最終製品の種類別とか、分け方はいくつもありますが、細かく切り分けた方が個々の売却金額は下がり、買収可能な企業が増えます。そうすれば、M&A実現の可能性も上がりますし、競合となれば価格も上がるでしょう。撤退してしまった有機EL事業だって、個別売却に出せば、買ってくれるトコロはあったんではないでしょうか。

 金融三社の出資から2年が過ぎ、そろそろ資金回収を本格的に考え出す頃でしょう。特にGSは足元のアメリカがおぼつかない状況なので、ココでの収益は最大化したいハズだと思います。携帯電話事業の売却で多少はリターンを受けたでしょうが、まだまだ足りないと考えているでしょうね。いずれは、電池事業や自動車関連製品事業の売却を打ち出してくるのではないでしょうか。そうなると、金融三社が手を引いた後、同社の成長戦略が描けなくなってしまうおそれがあります。

 同社の憂鬱は、まだ続きそうですね。


 ところで私が前回のエントリをアップロードした日(6月2日)、楽天がCS放送子会社の楽天TVをオリックスグループに売却してしまいました。TBSに対するアクションも見られなくなってしまいましたし、ど~やらメディア企業としての活動は縮小方向に向かっているようです。ネットユーザーのテレビ離れの進行や権利保護制度の混乱など、かつてよく言われた「ネットとテレビの融合」が進む気配すら見えない状況下、仕方のないコトかもしれませんが…メディア企業としての楽天に期待していた私としては、ちょっとガッカりです。

 それからチト古いハナシ(5月12日付け発表)ですが、古川電工が文書作成にOpenOffice.org(OOo)を採用することにしたそうですネ。よくまぁ、思い切ったコトをしたモンです。このblogではMSのOffice PersonalとOOoのプレゼンツールを使ってるんですが、後者の使い勝手はパワポに遠く及びません。提案用プレゼンを作る部署がヨく受け容れたモンだと思います。
 とりあえず6月3日に公開されたIBM版OOoであるLotus Symphonyをダウンロードしてあるので、次回はソレを使ってみるつもりです。あと、もぅちょっと経てばOOoの新バージョン(3.0)がクルはずですが……少しは良くなってるとイイなぁ。

2008年6月2日月曜日

株価についての、よしなしごと

 前回初めて、このblogで株価について触れました(チョットですけどw)。今回はそれに関して、うつらうつらと考えたコトを、徒然なるままに書いてみます。

 そもそも株価とは何でしょうか。理念的なものから卑近なものまで、色々な捉え方が為されています。その中の一つに、会社(の一部)に付いた値段、というものがあります。それに発行済み株式総数を掛ければ、会社全体の値段=時価総額となります。まぁ、実際その値段で買収されるコトは少ないんですけどね。時価総額は、いわゆる「企業価値」と呼ばれるモノの代表的なものです。


 一言に「企業価値」と言っても、それは対象企業との関わり方によって様々です。顧客から見た価値、従業員から見た価値、取引銀行から見た価値、納入業者から見た価値……それらはそれぞれ異なり、かつ流動的です。
 それらの中で時価総額は、情報としてオープンであるコトと評価者の数が多いコトが大きな特徴です。そうした要因から、時価総額は「企業価値の最大公約数(≒共通認識)」的なモノと言えると思います。
 そうであるからこそ、時価総額あるいは株価を、他の要素で説明する指標が、古くから数多く生み出されてきたのではないでしょうか。PER・PBRから、QレシオやPSR、EV/EBITDA等々…

 また、株価を予想する「モデル」も多く作られています。直近までの株価上昇期には、DCFやEVAを用いた、いわゆる「理論株価」が注目を浴びました。
 これらのアプローチは、事業が生み出すキャッシュフローや付加価値の積み重ねを現在の価値に割り引いたものを「事業価値」と捉えます。そして、事業価値と金融資産価値の合計を企業価値とし、それが時価総額とイコールになるという考え方です。まぁ試しにはじいてみると、理論株価が実際の株価より高く出る場合が、結構多かったりします。

 これには様々な理由が考えられますが、想定投資期間の差も、その一つと言えるでしょう。
 DCFやEVAという事業価値モデルでは、企業をGoing Concernとして捉え、無限期間を想定しています。一方、市場で行われる個々の株式投資は、無限ではありません。ある程度の期間にある程度の投資収益を求める、有限期間の行為です。同じモノを扱う上で、無限期間を想定するモデルと有限期間のモデルでは、前者の方が高くなる傾向が出てきてもおかしくない、つーか、その方が自然でしょう。
 但し、その「ある程度」の期間を、投資する時点ではっきりと認識している投資家は極めて少ないでしょうし、仮にそうであっても、後に変更するコトが多いと思われます。モデル化は極めて困難です。株式に対する投資期間に関する調査結果をドコかで見た覚えはありますが、全体に関する調査だったと思います。ソレを個別銘柄に適用するのは、さすがにムリがあります。

 また、投資家が求める期待収益も、把握するコトは極めて困難です。
 おそらく、多くの投資家、特に個人投資家の方々は、明確な収益期待を持って投資を行っているワケではないでしょう。なんとな~く、儲かりそうな銘柄に手を出しているコトと思われます。それでも、その「なんとな~く」には、「銀行預金やMMFよりは多くあって欲しい」とかの、あいまいな形での期待収益概念が含まれているだろうと思うんデスょ。さもなければ、わざわざリスクの高い資産に手を出さないでしょう。

 もし投資期間と期待収益(利回り)を考えるコトができれば、株価は利付債の理論価格と同じように形成されると想定するコトができます。投資期間経過後の理論株価は、その間の期待配当も含めて期待利回りで割引いた現在価値が、現在の株価となるようにすれば求められます。
 問題は上記のように、想定投資期間も期待利回りも分からないコトです。
 無理矢理求めるとしたら、代替要素としては、過去の実績を用いるしか無いでしょうね。投資期間については、取引所とか証券会社(あるいは系列のシステム会社)の扱っている売買トランザクションデータから、個別銘柄について平均保有期間のサンプルが取れるでしょう。配当は直近の実績を使うしかないかな?と思います。対象企業が予想を出していれば、それを使ってもいい。利回りも直近実績を使えばいいでしょうが、安全資産利子率を引いた超過収益率や、DCF法と同様の資本コスト(WACC)を使ってみる手もアリでしょう。色々試算してみて、落ち着きのいいトコロを使えばいいと思います。
 ~てな風にヤってやれば、形式的には算出することができるハズですが……労多くして益少なし、つーか、かかる手間とコストの割りに信頼性の低いモデルになりそうだなぁw

 さて、「ファンダメンタルズ」と呼ばれる企業の経営指標群や様々な経済指標から株価評価を行う職種が、「証券アナリスト」と呼ばれるものです。彼らのレポートでは例えば、「PER×0.5+PCFR×0.3+EV/EBITDA×0.2で見て、目標株価○○○円」なんて書かれたりすることがあります(ココで例示した指標と掛目はテキトーです)。
 なんつーか、理論付けに苦労してるな~、と思います。
 私も15年以上前に就職して以来、延々と「証券アナリストをやらせて欲しい」と会社に訴え続けてたんですが、結局ヤらせてもらえませんでしたorz (まぁ、ソレが退職の一因ではあるのですが)
 でも、最近の当該職種は、私の就職当時とは性格が変わってきているようですね。私が求めていた仕事とは、微妙に違っているような気もします。

 色々述べてきましたが、実際に個人として銘柄を見る上で私が使うのは、結局のところPERだったりしますw なんだかんだ言って、一番長期的に妥当性が高いように感じるんですョ。
 ただ、それがあてはまらなくなるのが、株価の上昇局面です。資金が流入して、PERで説明可能な範囲を超えて株価が上昇する段階になると、他の説明要因が求められます。1980年代後半のバブル期には企業の含み資産が注目され、Qレシオが使われました。2000年前後のITバブル期には、先行投資によって利益をあげられないIT企業を評価するため、PSRが使われました。直近の株価上昇期にはキャッシュフローが重要な評価基準となり、DCF法が理論株価算出に利用されました。
 次の株価上昇期には、どんな指標が使われるでしょうか。それを見つける(あるいは提唱する)金融機関や調査機関が、先行者利益を得ることになるでしょう。

2008年5月29日木曜日

ダイヤモンドは鈍く輝く~三菱電機

 電機業界における総合化の意味の低下を扱った回では、三菱電機(以下「同社」)の携帯電話事業撤退に触れました。
 電機と一言で言っても、その範囲は幅広く、非常に多くの種類の製品が製造・販売されています。これを産業として捉える場合、いくつかの製品群に分けて考えることが多いのですが、PCや携帯電話などの情報機器、洗濯機や掃除機などの白物家電、FAシステムや工場用電子機器といった産業用電機、発電システムやエレベータ・エスカレータをはじめとした重電などが、これにあたります。
 それら全てをカバーする企業を「総合電機メーカー」と呼びますが、その区分に入るのは、日立製作所(以下「日立」)・東芝・同社の三社です。


 これら三社の業績の推移を見ると、三者三様の変化を見て取れます。
 事業規模を拡大する日立ですが、利益面では二期連続の当期純利益ベースでの赤字を計上しています。東芝は売上面での拡大は日立ほどではありませんが、利益面では順調な伸びを示しています。一方同社は、売上は横這いから微増という程度ですが、東芝と同等の利益の伸びを見せ、利益率の面では三社で最も高い水準にあります。

 こうした変化の要因に、三社の事業構成の違いがあると思われます。

 三社が公開するセグメント情報が異なるので、厳密な比較はできません。ただ、産業向け・民生機器・サービスその他という形に大きく分けて考えることはできます。そうした比較をした場合、同社の産業向け比率の高さが際立っています。
 民生機器における、薄型テレビの急激な価格低下に代表されるコモディティ化の影響を同社が最も受けていないというコトが、現状にいたる要因の一つと言えましょう。


 さらに、同社のセグメント別利益率の推移を見ると、この間に対売上比率で最も増えた産業メカトロニクス分野の利益率向上が目立ちます。再編によって不採算事業を切り捨てる一方で、儲かるようになった事業が売上を伸ばした結果が、総合電機の中における現在のポジションに結びついたワケです。
 同社が電機セクターにおける「選択と集中の優等生」と評される所以でしょう。



 では、その変化はどのようなものでしょうか。この間における同社の産業メカトロニクス分野の主要製品群(決算短信記載分)の変化を見ると、「FAシステム」が抜けて「無停電電源装置」が入っているくらい。ですが、当該分野を担当するグループ企業を見ると、三菱エレクトリック・タイ・オートパーツ社とか三菱エレクトリック・オートモーティブ・チェコ社とか、カーエレクトロニクス製品製造の海外子会社が増えているのが目立ちます。
 製品群別売上高が分からないので確かなコトは言えませんが、自動車部品が同社の産業メカトロニクス分野の売上拡大と利益率向上に大きく寄与しているコトが推測されます。前世紀末から続く変化として、自動車産業のグローバル化が一つの大きな潮流になっているのですが、その恩恵が現れているのではないかと思われます。近しい企業グループ内に、自動車メーカーがありますしね。この推測が正しければ、インド・中国やロシア・東欧などで更に自動車産業の拡大が見込まれる中で、この傾向は更に続き、利益率の面における同社の優位性は更に高まる可能性があると言えます。同社は当面の間、電機セクターの中で勝ち組企業であり続けるでしょう。

 しかし、株式市場はこれを高く評価しているとは言い難い状況にあります。

 株価の推移を相対値で見てみると、底値であった2003年から直近のピークであった2007年にかけて、最も評価を上げたのは同社であったことは確かです。ただ、2007年末以降の株価推移は、総合電機3社の間に大きな違いはありません。

 これは、株式市場の人気投票としての一面が強く現れているのであろうと、私は思います。
 より分かり易く、より目立つ活動をする企業であり、それによって将来の成長性をより強く感じさせてくれる企業が、高く評価される傾向があります。IT分野におけるソフトバンクなどがその例にあたりますが、総合電機三社の中で最近の状況下においては、東芝がそれに最も近いと言えるでしょう。
 米ウェスティングハウス買収(2006年10月)による原子力発電事業の拡大や、フラッシュメモリ事業への注力によって、「原発と半導体」という「選択と集中」の看板を打ち出しています。HD-DVD事業からの撤退も、それを報道する資料の中には、むしろ不採算事業からの撤退として高く評価する部分を感じさせるものがありました。
 一方で日立は、日本最大級の企業グループの一角であり、なお事業規模の拡大を続けている、電機業界の最大手です。
 これらに対して、同社は目立ちづらいポジションにあります。今後の戦略説明にしても、「バランス経営」を標榜する同社のソレは、他二社に比べて成長戦略としてのアピール度は弱いと感じられます。

 同社に限らず、三菱グループの企業は、そうした傾向があるように感じます。旧三菱銀行がバブル期に融資拡大に走らなかった(あくまでも結果として、ですが)のが、現在に到るまで銀行業界の中でも信用面で高く評価されている一因でしょう。また三菱自動車が作る自動車は、他社製品に比べて重く、硬いモノが多いという特徴があります。全てにおいて地味なんですョね。

 ぶっちゃけ私は株屋の眷属出身者として、同社の経営戦略に面白みを感じられません。自分で投資家として同社の株を買おうとも思いません。ただ、Going Concernとしての企業を考えた場合、同社のような有り様もあっていいかな、とは思います。買収防衛策としての意味合いから、もうちょっとIRやPRで株価対策を講じた方がいいかな、とも思いますが。
 まぁ、そういう意味をこめて、今回のタイトルを付けてみたのですが…
 同姓のコピーライターさんの仕事と違って、「キレ」が無くてサーセンw

2008年5月1日木曜日

前回のおまけ+α

 ちょっと間が空きましたが、前回のお話では、嗜好性と規模の経済という二つの方向性が現れる業界を取り上げました。そこで、かつて分析した中で軽アルコール飲料業界もそうだったように記憶していると書きました。
 そのまま放り出すのもナンなので、直近の状況を調べてみました。


 いやぁ、見事に「規模の経済」が働く業界になってますねぇ。
 この業界では、ベルギーInterBrew社とブラジルAmBev社の合併によるImBev社誕生(2004年)やメルシャンのキリンホールディングス傘下入り(2007年)など、国内外とも大手同士による再編が進みました。その結果、上場企業の中には特化型の企業が無く、規模の経済が典型的に現れる状況になってしまったというコトでしょう。
 まぁ、これが国際競争というものですね。
 もちろん、地酒を造る酒屋やワイナリーは今後も特色ある企業として残っていくことでしょうが、そうした中小企業が大手に買収されること(サッポロによるチリViña Undurraga社買収~2005年とか、ウイスキーですけどサントリーによるBowmore買収~1994年とか)も続くでしょう。

 もう一つこのグラフを見て気が付くのは、傾向線から大きく上方に乖離する、即ち強いブランド力を持つ企業も無い、ということです。私のようなエロおやぢに対してバドガールの訴求力は強いワケですが、全体としてのBudweiser(Anheuser-Busch社)のブランド力は然程でもないことが見てとれます。

 さて、こうした形の再編が進んだ軽アルコール飲料業界と、未だそれが進んでいない化粧品・トイレタリー業界では何が違うかというと…商品の持つ嗜好性の強さからくる、消費者のロイヤリティの強さが最も強く影響しているんだろうと思います。
 喉が渇いてビールが飲みたくなったトキに、「お気に入りじゃなきゃイヤ」というヒトは、あまりいないでしょう。スーパードライを普段飲んでいるヒトでも、一番絞りとモルツしか置いてなければ、どっちか飲んじゃいますよね?
 そうした代替可能性の高さが、上記のような、規模の経済が促進される一方で特別なブランドは不在という状況に繋がっているのでしょう。
 でも、日頃TSUBAKIを使っているヒトがアジエンスに替えるには、結構思い切りが要ると思います。但し、それじゃあ化粧品・トイレタリー業界が、軽アルコール飲料業界に近い形の再編が進まないかというと、そうは言い切れません。
 ファッション業界では、複数の、方向性が必ずしも近いものばかりではないブランド群を単一企業グループが取り込む形で、ここ数年で急激に再編が進んでいます。ファッション企業の中には、酒類メーカーと合併したトコ(LVMH)までありますね。
 化粧品・トイレタリー業界でも、同様の再編が進む可能性は否定できません。むしろ、欧米での景気後退と発展途上国での普及促進のために求められる単位コストの削減が、再編を後押しする可能性もあろうかと思います。ファッション企業による、業界の壁を越えての買収も、あるかもしれません。
 さて、どこがどこを飲み込むでしょうか…


 ところで、道路特定財源のための暫定税率制度の再適用が可決されちゃいましたね。
 ドライバーとしてはツラいトコロです。ゆうべは私も行列に並んで、満タンにしてきました。私のクルマは今月車検なので、重量税の減免を期待してたのですが、ソッチの方はもっと残念です。
 で、今回、福田首相他の方々がソレを正当化するに際して、ガソリン税の環境税としての意味合いを主張していたのは、私ゃ気に入りません。
 スタグフレーション環境下で生活コスト全般を切り詰めているのに、レジャーコストを拡大してガソリン消費を増やすワケがないでしょう。
 環境税としての性質を持たせるなら、景気に連動して税率を上下させるようにすればいいと思うんですよ。そうすれば、景気拡大期にもガソリン消費の増加は抑えられるでしょう。
 ガソリン税に限らず、景気連動型の税制はあっていいんではないでしょうかね。
 全部税率(または税額)固定にしちゃうから、好況期の予算が既得権益化して、不況期に必要以上に国民経済を圧迫することになるんじゃないでしょうか。
 好況時により大きな税収増が見込める形にしておけば、官僚や政治家の方々も、成長路線を重視する方にシフトしてくれると思うんですけどねぇ。ついでに、好況が行き過ぎてバブルになるのを抑える効果も期待できると思うんですけど…
 如何ですか?

2008年4月1日火曜日

タタ・モーターズの課題

 去る3月26日、インドのタタ・モーターズによる米フォード社からの「ジャガー」「ランドローバー」両ブランド買収が発表されました。昨年、両ブランドが売却対象とされて以来の流れの中では、順当な結果と言えるでしょう。
 ただし、このM&Aが効果をあげるには、大きな課題があると思います。

 自動車という商品には、二つの性格があると考えられます。一つは実用品=量産品としての性格であり、もう一つは嗜好品としてのそれです。
 前者としての自動車は、短時間で長距離の、自由度が高い移動を可能とするものです。後者としてのそれは、運転時の様々な快感や、所有することによる喜びを与えてくれます。
 両者は必ずしも一つの企業が提供するものとして両立不可能なものではありませんが、その実現は困難です。
 大量生産によって合理化を進め、「規模の経済」を追求するのが、前者としての自動車産業のあり方です。
 これに対して、後者の方向性は、個人の嗜好に細やかに対応することが求められます。これは、前者の方向性とは相反するものです。一方で、一台あたりの付加価値は高くなります。
 また、市場が成熟している必要があります。消費者が自己の嗜好を把握することが、後者の方向性を持つ企業の存続可能性を担保するからです。
 例えば、私は小型でハンドリングの良い、NVH(Noise/Vibration/Harshness~運転手に対して与えられる感覚情報)がしっかり伝達されるクルマが好みです。ホンダ(バラードCR-X)からポルシェ(930型)に乗り換えて現在に到るのですが、今後マツダやBMWを選ぶことはあっても、トヨタやプジョーを買うことはないでしょう。こうした明確な嗜好を持つ消費者が一定以上いれば、趣味性の高い商品を提供する企業は存続可能です。

 さて、そのような消費者の成長には、市場が立ち上がってから、長い時間を要します。メーカーが高度化した消費者ニーズに対応したモノ造りができるようになるまでもまた、長い時間が必要です。
 最近、欧米で日本メーカーの自動車が高い評価を得ているとの報道が見られます。日産のスカイライン・クーペやマツダのデミオなどがその対象ですが、それらに対する評価は、これまでの日本車に対する評価(安価で丈夫など)とは趣が異なる感じを受けます。
 こうした変化は、日本メーカーが、嗜好品としての自動車を創るノウハウを得られたことの現われではないかと思います。

 タタ・モーターズは、今後発展が期待されるインド市場に、世界で最も安価な自動車を提供する戦略を明らかにしています。即ち、前者の方向性を持つ自動車メーカーです。これに対し、今回買収された両ブランドは、日・米・欧の成熟した市場においてブランド力を確立している、付加価値の高い、少量生産車ブランドです。
 これまでにも同様に、成長したアジアの自動車メーカーがヨーロッパのメーカーやブランドを買収した例があります。インドネシアのメガテック社によるランボルギーニ買収や、韓国の起亜自動車によるロータス・エラン製造権取得などがそれですが、いずれもうまく行ったとは言い難い結果に終わりました。
 大量生産型の企業であったアジアメーカーと、少量高付加価値型のヨーロッパブランドの間の「文化の衝突」が、これらの失敗の原因ではないかと、私は考えています。
 タタ・モーターズがこの方向性の違いをどうコントロールするか、注目したいところです。


 さて、こうした二つの方向性=成長戦略が個々の企業の状況に現れている例に、化粧品・トイレタリー業界があります。(うろ覚えですが、以前分析した業界の中では、ビールを中心とした軽アルコール飲料業界もそうだったように記憶しています)
 世界で競争している米P&Gや英Unilever、日本で上位の花王や資生堂などは、数量効果で事業効率を上げている企業群~規模成長型に属すると言えるでしょう。一方、マンダムやコタといった顧客層を明確にした企業や、天然由来原料を前面に押し出すドクターシーラボ等は、事業特性特化型によって付加価値を高める方向性を見せています。
 上のタタ・モーターズによるジャガー及びランドローバー買収は、この業界で言うと資生堂によるマンダム買収などということになると思いますが、そうしたM&Aがうまく行くかというと…やはり微妙でしょうね。


 ところでこうした、製品が嗜好品と量産品の両方の性格を持つ業界には、二つの方向性のいずれかを明確化できずに、生産性=競争力が低い企業が存在します。
 これは、なにがしかの問題や課題を内包した企業であることが多いのですが、金融業とかコンサルといったサービス屋にとっては美味しい対象です。
 「成長戦略を明確化しましょう」つー基本的なトコから始まって大きなコンサル案件に仕上げることも可能でしょうし、主に規模成長型企業を買い手として切り売りする商材にすることも考えられるでしょう…つーのは意地悪スギですかねw